iPS細胞の実用化に前進

2016年10月01日

iPS細胞は、再生医療にとって非常に有用な治療法になることが期待されていますが、臨床応用にまでの最も大きな障害ががん化の抑制でした。慶応大学の整形外科などの研究チームが、iPS細胞のがん化を抑制する方法を開発しました。

最初に、iPS細胞の作成方法を簡単に説明します。患者から採取した皮膚細胞に4種類の遺伝子を導入すると、初期化されてiPS細胞になります。このiPS細胞は、培養条件などにより筋肉や神経細胞など様々な細胞に分化し、成長していきます。目的の細胞ができたら、患者への移植などに使用します。私が最も期待している治療のひとつは、脊椎や頸椎の損傷患者の再生治療です。iPS細胞で神経細胞をつくり、切断した神経をつなぐことで、車いす生活から自力歩行ができるようになって欲しいのです。他には、1型糖尿病でインスリン治療をしている多くの患者にベータ細胞を移植することで、インスリン注射から解放されることです。これらの治療法は、マウスの実験では既に成功しています。しかし、iPS細胞の一部ががん化してしまうので、人での治療にはこのがん化を如何に予防するかが重要な課題でした。

慶応大学の研究グループが開発した方法は、GSI(ガンマセクレターゼ阻害薬)という薬品で処理してから移植すると、神経細胞はがん化がないことを報告しました。GSIとは、細胞が多様な組織に分化する指示を出しているシグナルが働かないようにする薬品で、無限大に増殖してしまうがん細胞になることを止めるのです。研究チームでは、早ければ来年度にも、iPS細胞から作製した神経幹細胞を移植して体の機能を回復させる臨床研究を始める予定です。この方法が実用化されれば、脊椎損傷患者は車いすなしで、歩けるようになります。他の再生医療にも期待の大きな研究です。