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がん

がん研究最前線: ① 悪性度も見分ける造影剤

2016年06月01日

”がんの検査で汎用されているPET-CTは、目印を付けたブドウ糖を注射すると“がん”に集まるので、全身をCT撮影して目印のブドウ糖を探せば、“がん”の有無に加えて位置や大きさも捉えることができます。PET-CT検査では、5 mm程度のがんの発見が可能です。

東京大学などの研究チームが発表した新たな造影剤を用いる方法では、1.5 mmのマウスの転移肝がんを確認できた上に、その悪性度も検知できています。その原理は、図のようになっています。がん組織は酸素濃度が低いので、悪性度が高い程酸性に傾いています。そこで、酸性状態で溶けだすリン酸カルシウムと造影剤のマンガンイオンを微小なカプセルに閉じ込め、患者に投与します。この微小なカプセルは、正常な組織では血管から漏れませんが、“がん”組織の血管では比較的大きな穴があるので、ここから漏れ出て周囲の“がん”細胞へ届きます。カプセル内にある造影剤のマンガンイオンをMRIで撮影することにより、ごく初期の“がん”細胞を見出すことが可能で、さらに悪性の場合にはより強く反応します。

この方法を用いると悪性度もわかるので、治療方法の選択や予後の経過予測がより正確になる事が期待できます。

iPS細胞によるがん治療

2016年02月20日

iPS細胞の技術を解りやすく説明すると、各組織に成長した大人の細胞に4つの遺伝子を導入すると赤ちゃん細胞に逆戻りする(受精卵のように何にでもなれる状態に初期化する)ので、その後に作りたい細胞へと再成長させる技術です。このiPS細胞の研究でノーベル賞を受賞した京都大学の中山伸弥教授の研究グループが、がん細胞を攻撃するNKT(ナチュラルキラーT)細胞をヒトのiPS細胞から大量作成する方法を開発して、アメリカの科学誌ステムセルリポーツ電子版に発表しました。

血液中にあるNKT細胞は、がんの見張り役に加えがん細胞を攻撃するNK細胞などの後方支援をする細胞で、がんの防御には大切な細胞なのです(『医学博士の健康ブログ』の2014年11月20日の記事をご覧ください)。しかし、体内には少数しか無いうえに,がん患者ではその数がより減少していることが知られています。そこで、NKT細胞を大量に作成してがん患者に投与すれば、著しい回復が期待できるのです。 今回発表した方法は、人の血液中にあるNKT細胞を採取して、その細胞をiPS細胞に変えた後に再びNKT細胞に戻す方法です。この様な方法をとる理由は、血液中に少数しか無いNKT細胞ですが、一旦iPS細胞に変化させることで無限に増殖させることが可能になるのです。この方法で作成したNKT細胞では、通常持っている他の免疫細胞への攻撃支援作用の他に、自身のがん攻撃作用も確認されていますので、鬼に金棒の強力免疫細胞になっています。

現在の抗がん剤は、副作用の大きさに対して効果が小さいので、がん患者の寿命を短くしているケースの方が多いのが現状です。iPS細胞によるNKT細胞の治療が可能になると、副作用がなく高い治療効果が期待できます。さらに、この方法を応用して他の免疫細胞も大量作成すれば、がんの治療効果が格段に上昇することが期待できます。さらに、多くの感染症などもより効果的に治療できるようになるでしょう。他には、iPS細胞によるすい臓β細胞の作製で、一生涯インスリン注射が必要な1型糖尿病の完治も期待できます。iPS細胞による治療は無限の可能性を有していますので、早急な実用化が望まれます。

がんの5年生存率と10年生存率 (1)

2016年02月01日

がんの治療現場では、治癒の目安として「5年生存率」が用いられています。「5年生存率」とは、がんの治療開始から5年後に、再発の有無にかかわらず生存している人の割合を意味しています。では、どうして5年ががんの治癒の目安になっているのでしょうか?

がん細胞には、血液やリンパに乗って他の臓器や器官に転移する特徴があります。がんが転移して再発するまでにかかる期間は、長く見積もっても5年と考えられていました。従って、5年間に検診で異常がなければ、がん細胞を完全に取り除くことができていると考えられていたのです。

この生存率に関して、国立がん研究センターなどの研究グループが、全国16のがん専門病院の患者約3万5千人を10年間追跡調査して、初めて「10年生存率」を発表しました。その結果、「5年生存率」と「10年生存率」は、がんの部位により大きく異なることが明らかになりました。

大腸がんや胃がんの場合は、5年以降は生存率がほぼ横ばいになるので、これまで通り「5年生存率」で予後の判断が可能でした。一方、肝臓がん、乳がんは5年以降も生存率が下がり続けるので、「5年生存率」は指標には適していなかったのです。従って、がんの治療はより長期的展望で行われるべきであり、臓器ごとに指標が異なることが示唆されています。

なお、全てのがんの全臨床病期(Ⅰ~Ⅳ期)の10年生存率の平均値は58.2%でした。生存率が最も高かったのは甲状腺で90.9%で、次いで前立腺84.4%、子宮体83.1%、 乳80.4%でした。一方、低かったのは食道29.7%、胆のう胆道19.7%、肝15.3%で、最も低かったのが膵4.9%でした。

現在では、二人に一人ががんに罹患します。がんに罹患し難い体質になるために、罹患した方は回復力を高めるために、本ブログの2014年10月1日からの「がん・予防(1)~(4)」と、同年11月20日からの「免疫(1)~(3)」を参考にして、食事や運動、睡眠などの改善を心がけましょう。

ソーセージやベーコンでがんになる?

2015年11月10日

先月26日に、世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)から、ソーセージやベーコンなどの加工肉がタバコやアスベストなどと同じ「発がん性がある物質」に分類され、毎日50g食べると発がん率が18%上昇するとの報告がありました。近年、大腸がんの患者が増えているのは、農耕民族の日本人が肉食の西洋食に急変していることが原因と考えられているので、肉や加工肉を大量に摂取することは大腸がんのリスクを上昇させる可能性は高くなります。では、どの位の摂取量なら問題ないのでしょうか?これに対して色々な分野から反響がありますが、本ブログにて私見を述べます。

毎日50gの加工肉を食べたと計算すると、年間では18.3㎏になります。日本では年間平均の摂取量は6.1㎏程度ですから、現在の消費量ではがんの誘発には問題外の量ということになります。ソーセージをよく食べるドイツでは、年間では30.7㎏程度食べていますが、がん患者は多くはありません。今回の報告では、加工肉を食べすぎたことに起因する死亡例は、世界で31000件と推測されています。日本のがんによる死亡者数は年間で約36万人ですから、加工肉以外の要因が大きいという解釈になります。従って、通常量の加工肉の摂取では、発がんの心配をする必要はありません。

問題になるとするならば、肉や加工肉を大量に食べて、野菜、ヨーグルトや納豆などの発酵食品、ごはんなどの割合が極端に少ない場合と考えられます。元気な高齢者は、肉類も十分に摂取している方が多いですが、野菜やくだもの、ヨーグルトや納豆、ごはんなどのバランスが良いのです。なお、テレビの番組で納豆、ヨーグルト、トマトなどが体に良いと放送すると、マーケットの商品棚からこれらが消えることがありました。健康に良い物もそればかりを食べていると栄養が偏るので、逆に不健康になってしまいます。多種類の食品のバランスが大切です。

結論として、

ソーセージやベーコンなどの加工肉は、通常の摂取量ならば発がんの心配はないと考えられます。肉、野菜、発酵食品、炭水化物などをバランスよく摂ることが、健康寿命を延ばす秘訣です。

がん治療の最新研究(がん細胞の光治療&微小カプセル治療法)

2015年07月01日

身体の外から光を当ててがん細胞を治療する臨床試験が、アメリカの3大学で始まります。この治療法を開発したのは日本人の研究者で、米国立衛生研究所の小林久隆医学博士です。小林博士の研究は、2012年のオバマ大統領の一般共教書演説で紹介されている期待の治療法です。

その治療法とは、①がん細胞に結合する抗体に、光に反応する化学物質を結合させる。②これを、がん患者に注射すると、がん細胞だけにくっつく。③体外から近赤外線を照射すると、光に反応する物質が、がん細胞と一緒に壊れる。

この治療法の画期的な点は、外科手術が必要ないので、患者への負担が極めて少ないことに加え、正常細胞への侵襲がないので抗がん剤のような副作用がありません。さらに、この治療法は大掛かりな設備投資が必要ないので、地方の一般病院でも実施されるようになれば、どれだけ多くのがん患者の命を救うのか、計り知れないほどの研究です。がん撲滅への大きなステップになることが期待されています。

他のがん治療の最新研究は、微小カプセルでがん細胞だけを放射線破壊する方法です。この研究は、東京大学の片岡一則教授らのグループの発表です。55 nm(nmは10億分の1㍍)の微細カプセルの中にガドリニウムという元素を入れます。このカプセルには、がん組織に集まる性質を持たせてあるので、これをがん患者に注射します。ガドリニウムは、中性子線が当たると放射線を出して、結合したがん細胞を破壊します。マウスの実験では、がんの増殖が大きく抑えられたとのことです。

3月20日の「線虫ががんを見つける」研究や、今回のがん細胞の光治療や微小カプセルによるがん破壊治療は、一日も早く実用化して欲しいと願っています。