タグ
iPS細胞

iPS細胞でパーキンソン病の治療

2017年09月10日

パーキンソン病は、脳内で情報伝達をする“ドーパミン”を出す神経細胞が減少することで発症します。徐々に体が動かなくなる難病で、患者は国内で推定16万人もいますので、有効な治療法の開発が望まれています。京都大学のiPS研究所は、iPS細胞の移植によるサルのパーキンソン病の治療と、その安全性を確認しました。

その方法は、ヒトのiPS細胞から神経のもとになる細胞を培養します。パーキンソン病を発病して手足の震えのあるサルの脳に移植します。1年後には震えなどの症状が改善して、元気に動き回るように回復しました。移植後は、2年経っても移植による異常は認められていませんので、ヒトへの応用も近いでしょう。

iPS細胞を用いた治療では、本ブログで紹介しているように、種々の疾患の治療が研究されています(糖尿病心筋梗塞がん)。また、iPS細胞治療の課題であるがん化の抑制の研究は日々進展し(がん化抑制)、バンクの設立(バンク)も準備が進んでいます。1日でも早く臨床応用され、苦しんでいる患者さんたちが救われること望んでいます。

iPS細胞による治療が一歩前進

2017年04月20日

iPS細胞による治療の最大の研究課題はがん化の抑制でしたが、理研での「加齢性黄斑変性」の治療で安全宣言が出されました。この安全宣言により、iPS細胞治療は大きな前進をしました。

上記の臨床研究は、2014年に70歳の女性の皮膚から作成したiPS細胞をシート状の網膜組織にして移植したもので、手術から2年以上経過しても腫瘍ができるなどの問題が起きていないし、視力も維持できているとの論文を発表しました。

iPS細胞の安全性が確認されれば、多くの治療に応用されます。東京大学ではiPS細胞から作成した膵島をサルに移植して血糖値を下げることに成功したと報告しました。5年後にはヒトでの臨床研究が始まる予定です。1型糖尿病は、一生涯にわたってインスリン注射をしなければいけませんが、この治療法が実用化されれば、注射なしで通常の生活が送れます。

iPS細胞バンクの準備も進んでいます。本人から細胞を採取してiPS細胞を作成するには、長期の期間と多額の費用が必要になります。そこで、拒絶反応の少ない体質の人から採取した細胞を用いてiPS細胞を作成しておけば、安価に迅速な移植治療が可能になるのです。

1型糖尿病でのインスリン注射や脊椎損傷で車いす生活を余儀なくされている患者さんが、通常の生活ができる日が近いことを感じます。

 

糖尿病治療の最新研究

2017年02月01日

糖尿病は、国民病と言われるほどに多くの方が罹患しています。糖尿病の新しい治療法として、マイクロRNAを用いる方法が東北大学の研究チームから発表され、iPS細胞を用いる方法を東大医科研チームが発表しました。

マイクロRNAとは、たんぱく質を合成するRNAと異なり、塩基対が22塩基の小さなRNAで、遺伝子の発現を調整する機能を持っています。マイクロRNAは500~600種類が認識されていますが、このうちの2種類(106bと222)が膵臓のβ細胞の再生に関わっていることが明らかになりました。この2種類のマイクロRNAを糖尿病のマウスに注射すると、β細胞が増殖して、インスリンの分泌が回復し、血糖値が改善することが確認されました。

この方法は、2型糖尿病に応用が期待されます。日本人の糖尿病の95%は2型糖尿病で、不摂生な生活が原因で発症するタイプです。この2型糖尿病の患者のうちの半数以上は、経口薬やインスリンなどの薬剤は不要で、食事療法と運動療法のみで血糖コントロールが可能です。従って、第一には生活習慣の見直しが不可欠ですが、それでもコントロール不能な場合に上記のような治療法の活用が望まれます。

東大医科研チームの発表したiPS細胞を用いる方法は、健康なマウスから作ったiPS細胞をラットの子宮内で育て、その子供のラットの膵島を採取して糖尿病のマウスに移植すると、糖尿病が改善しました。この方法の特徴は、マウスとラットという異なる種で治療に必要な膵島が用意できることです。従って、ブタにヒトの膵島を作らせて移植すれば、ヒトの1型糖尿病の治療も可能になります。1型糖尿病は、自己免疫疾患などで膵島が破壊されるために、一生の間インスリン注射が必要な疾患ですので、この方法により根本的治療が期待できます。

 

iPS細胞による心筋梗塞の治療

2016年10月20日

サルのiPS細胞から作成した心筋細胞で、心筋梗塞のサルの治療に信州大学の研究チームが成功しました。治療法は、カニクイザルから皮膚細胞を採取して、iPS細胞を作成します。そのiPS細胞を心筋細胞に変化させ、心筋梗塞のサルの心臓に注射器で移植しました。移植された心筋細胞は心筋に定着して、心機能の改善が確認されました。しかしながら、不正脈が観察されたことより、その抑制が次の課題となります。

今月10日の記事で、iPS細胞のがん化を抑制する研究を紹介しましたが、iPS細胞を使用した再生医療は日々進化しています。この方法を応用して、心筋、網膜、膵ベータ細胞、神経細胞など、様々な細胞を作製してiPS細胞バンクを作っておけば、必要な時に治療に応用できるようになります。その日が近づいています。

iPS細胞の実用化に前進

2016年10月01日

iPS細胞は、再生医療にとって非常に有用な治療法になることが期待されていますが、臨床応用にまでの最も大きな障害ががん化の抑制でした。慶応大学の整形外科などの研究チームが、iPS細胞のがん化を抑制する方法を開発しました。

最初に、iPS細胞の作成方法を簡単に説明します。患者から採取した皮膚細胞に4種類の遺伝子を導入すると、初期化されてiPS細胞になります。このiPS細胞は、培養条件などにより筋肉や神経細胞など様々な細胞に分化し、成長していきます。目的の細胞ができたら、患者への移植などに使用します。私が最も期待している治療のひとつは、脊椎や頸椎の損傷患者の再生治療です。iPS細胞で神経細胞をつくり、切断した神経をつなぐことで、車いす生活から自力歩行ができるようになって欲しいのです。他には、1型糖尿病でインスリン治療をしている多くの患者にベータ細胞を移植することで、インスリン注射から解放されることです。これらの治療法は、マウスの実験では既に成功しています。しかし、iPS細胞の一部ががん化してしまうので、人での治療にはこのがん化を如何に予防するかが重要な課題でした。

慶応大学の研究グループが開発した方法は、GSI(ガンマセクレターゼ阻害薬)という薬品で処理してから移植すると、神経細胞はがん化がないことを報告しました。GSIとは、細胞が多様な組織に分化する指示を出しているシグナルが働かないようにする薬品で、無限大に増殖してしまうがん細胞になることを止めるのです。研究チームでは、早ければ来年度にも、iPS細胞から作製した神経幹細胞を移植して体の機能を回復させる臨床研究を始める予定です。この方法が実用化されれば、脊椎損傷患者は車いすなしで、歩けるようになります。他の再生医療にも期待の大きな研究です。