セカンドオピニオン(偽高カリウム血症)

2018年02月01日

健康相談に電話をいただいた中年女性の事例です。この方は糖尿病はあるものの、血糖コントロールは極めて良好で、腎症などの合併症も一切ありません。行きつけの病院で血液検査の結果、カリウム(基準値 3.6~5.0 mEq/L)が6.9と高値でした。(カリウムは心臓の筋肉の動きに関与しているので、6.0 mEq/L以上の高値になると危険な不整脈の原因となり、心停止のリスクが大きくなります。)そこで、心電図の検査をしたが異常はなく、カリウムを多く含む野菜や果物の摂取を控えるように指導され、再検のための採血をおこない帰宅。翌日の検査結果は、カリウムは5.8になり、昨日の高カリウムは検査の機械が調子悪かったのだろうとコメントされたそうです。

*セカンドオピニオン

この例は、「血液検体の取り扱いが悪いことにより、赤血球中のカリウムが血清中に出てきて、偽の高カリウム血症になっている」可能性が極めて高く、心配はいりません。その根拠は、主に2つです。1つ目は、腎症もなく、カリウムを含んだ薬剤の大量投与もないのに、カリウムが6.9の高値に急上昇することは考えられない。2つ目は、何の処置もしていないのに次の日に5.8まで変化するのは不自然です。従って、病的な要因での高カリウム血症ではなく、人為的な要因が関与している偽の上昇といえます。

血液検体の取り扱いの不備でカリウム値が上昇する機序は、以下の通りです。血液検体は、採血後に遠心分離して、上澄みの血清部分だけを冷凍などの低温で保存します。しかし多くの開業医では、検査は検査センターに外注しています。その際に、遠心分離をせずに検査センターの収集時間まで長時間に渡って血液検体を放置すると、赤血球の中に高濃度に存在するカリウムが血清中に染み出してくるので、カリウムの測定値が高くなります。このカリウム値の上昇は、血液検体を放置した場所の温度が低いほど大きくなります。例えば、冷蔵庫のような低温状態ですが、冬は室温が低いので冷蔵庫と同じようなカリウム値の上昇を起こし易くなるのです。

血液検査のデータは、病的に変化するばかりではなく、検体の取り扱いの不備にも影響されます。