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がん

がん・予防 (2)

2014年10月10日

 3.  臓器別のがん死亡率

 平成24年に“がん”で亡くなった方は36万人で、死亡総数の28.7%と約3人に1人の割合で、死因のトップになって以来増え続けています。従って、がんを予防すれば平均寿命が延び、医療費の削減にも貢献します。

死因

 がんの罹患者数と死亡者数を下図に示しました。臓器別の死亡者数で多いのは、男性では肺、胃、大腸の順で、女性では大腸、肺、胃です。なお、男性の前立腺がんおよび女性の乳がんは罹患者が人口10万人当たり100人を超えるのですが、死亡者では共に20人を下回っています。これは、癌の種類によって発見されやすいもの、および悪性度や治癒率の高低があることを示しています。以下に、死亡率の高いがんについて説明します。

人工10万人当たりのがん罹患者(左)と死亡者数(右)

① 肺がん

 肺がんには、小細胞がんと非小細胞がん(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん)があります。肺の入り口の太い気管支部分(肺門部)には扁平上皮がんが多く発生し、喀痰検査や気管支鏡の検査が有効です。気管支の奥の肺胞がある部分(肺野部)では、殆どが腺がんで、X線検査が有効です。肺がんの原因は、喫煙が挙げられます。近年、禁煙志向が高まっているのもかかわらず肺がん患者が多いのは、肺がん発症までには長期間かかるので、以前の喫煙者が現在発症しているのです。近い将来には、禁煙の効果で肺がんの発症者は減少するものと推測されます。

②. 胃がん

 胃がんは、胃の表面の粘膜に発症し、徐々に粘膜下層、筋層、漿膜へと浸潤していきます。粘膜下層までの進行はまだ早期胃がんなので、非常に高い確率(ほぼ100%)で根治できますが、筋層より深くまで進行すると治癒の可能性が低下していきます。原因は、食生活が大きく影響すると考えられています。また、ヘリコバクターピロリ菌(ピロリ菌)の感染も、胃がんの発症に関与します。中高年では7~8割がピロリ菌に感染していますが、その内で胃がんになるのは約0.5%(200人に1人)の割合です。しかし、胃がん患者には高確率でピロリ菌の感染がみられます。抗生物質による除菌は、現在は健康保険が使えるので安くできるようになりました。副作用は、肝障害や下痢などがあります。病院は除菌を勧めますが、がんになる確率が0.5%なので、除菌をするかしないかは本人の意志次第です。ただし、すでに胃に障害がある場合には除菌が必要です。また、症状がなく除菌を望まない場合には、定期的に胃カメラなどでの検診が望まれます。

③ 大腸がん

 大腸は約2 mの長さで、結腸(上向結腸、横行結腸、下向結腸、S字結腸)、直腸、肛門の3部位に分けられます。大腸がんの発生し易い部位は、直腸35%とS字結腸34%で、約8割の大腸がんは肛門から近くの部位に発症します。初期の大腸がんであれば、内視鏡手術で簡単に除去できますし、予後も良好です。定期的に便の潜血反応や内視鏡検査を受けることで、早期発見が可能です。大腸がん発症の原因として、食の欧米化で動物性脂肪の摂取量が増えたことが挙げられます。本来、農耕民族である日本人は、農作物の食事に対応した腸の形状になっているので、洋食よりも和食が適しているのです。

4.最新のがん検査(マイクロRNA)

ヒトの体は、細胞の核内にあるから転写されたRNAにより合成されたタンパク質で出来ています。RNAの中には、タンパク質合成の遺伝情報を含まないRNA(ノンコーディングRNA)が大量に存在しています。その中でも、マイクロRNA(miRNA)と呼ばれる長さ20から25塩基ほどのRNAは、遺伝子の働きを抑制する機能を持ち、がんなどの疾患と関連することが、近年明らかになり注目されています。このマイクロRNAは、細胞内に存在するタンパク質への翻訳はされないで、他の遺伝子の発現を調節する機能を有すると考えられているRNAの一種です。ヒトには2500種類以上あり、がん患者の血液中では種類や量が変動することが明らかになったので、そのパターンを調べることで、がんの種類を特定する検査です。


開発対象となっている13種類のがんは、
胃がん、食道がん、肺がん、肝臓がん、胆道がん、膵臓がん、大腸がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、乳がん、肉腫、神経膠腫
です。1回の採血で検査が出来る上に、初期の癌も発見できるメリットがあります。現在実用化できているのは、乳がんと膵臓がんの2種類のがんで、他にアルツハイマー病があります。採血し、血中のマイクロRNAを抽出したのち、発現パターンを調べます。その有力な手法が、マイクロアレイです。この方法では数千から数万種類の遺伝子の発現パターンを短時間で網羅的に調べることができます。近い将来には、健康診断などの1回の採血で多種類のがんの有無を簡単に調べられるようになるでしょう。 

 

がん・予防 (1)

2014年10月01日

1. がん(ひらがな)と癌(漢字)、腫瘍、悪性新生物の違いとは?
 “がん”の分野では、“がん”(ひらがな)、癌(漢字)、肉腫、腫瘍、または悪性新生物と複数の表現があります。この違いは、お判りでしょうか?

 まず、“がん”(ひらがな)、癌(漢字)、肉腫の違いは、発生する細胞の違いによります。癌(漢字)は、皮膚や粘膜など表面の上皮細胞にできたものをいいます。内側の組織である筋肉、骨、血管、神経などに発生したものが肉腫です。血液では、白血病やリンパ腫になります。例としては、胃の表面の粘膜に発生するのは胃癌です。同じ子宮でも、子宮頸癌や子宮体癌は子宮の上皮細胞にできた“がん”なので、漢字の癌になります。子宮の筋肉組織では、良性の子宮筋腫や悪性の子宮肉腫があります。骨では骨肉腫といわれます。ひらがなの“がん”は、癌、肉腫および血液の全てのものを総合した表現です。

 また、“がん”、腫瘍、悪性新生物の表現の区別は、専門分野の違いによります。“がん”は、患者さんと接する臨床分野(病院)で使われます。“がん”が悪性か良性かなどを調べる病理学の分野では“腫瘍”で、どの組織で何%発生しているかや死亡率などを研究する統計学的分野では“悪性新生物”と表現されます。

2. なぜ“がん”になるのか?

“がん”という病気は、その漢字の“癌”が表現しているように、細胞(品)が山のように増える病気(やまいだれ)です。ヒトの細胞の原点は1個の受精卵で、核の中に遺伝情報を司る30億対の塩基を持っています。これが細胞分裂を繰り返して約60兆個の細胞になり、人体を構成しています。さらに、生きていく過程で古い細胞を新しくするために、細胞分裂を繰り返しています。その時には30億対の塩基も、全く同じにコピーされているのです。

その60兆個もの細胞がすべて常に規則正しい増え方をしてくれればいいのですが、稀にコピーを間違って違う塩基配列になってしまう時があるので、これを修正する機能(がん細胞を抑える遺伝子)が間違いを修正しています。しかし、このチェックもすり抜けて、異常な核酸配列を持った細胞(がん細胞)が、毎日数百個~数千個出来てしまいます。すると、がん細胞は白血球の仲間であるナチュラルキラー細胞(NK細胞)によって攻撃・破壊されるので、正常細胞だけが残る仕組みになっているために“がん”にならずに済んでいます。

 この様な防御機能があるにもかかわらず“がん”を発症してしまう要因は、先ず高齢化があります。NK細胞活性は、中年以降に急激に低下するので、“がん”を発症する確率が高くなります。また、ハーバード大学がん予防センターから、がん死亡の原因は喫煙(30%)、食事(30%)、運動不足(5%)、飲酒(3%)と報告されています。この様な生活習慣病に関連した因子が加齢とともに蓄積し、“がん”の防御反応を低下させ、“がん”を発症させている要因と考えられます。

放射線(CT,レントゲン)でがんになる

2014年02月01日

寒い日が続いていますが、皆様お元気でしょうか?もう2月になります。今回から、また医療の裏側の話題に戻ります。ぜひ皆様の健康管理にお役立てください。

病院に診察に行くと、「念のためにCTやレントゲンを撮影しておきましょう」と言われることがしばしばで、高頻度で放射線の被曝を受けることになりますが、患者の方も何の疑問を持つこともありません。なぜなら、患者の心理として、丁寧に診察してもらっているという印象だからです。一方の診察する側は、万が一にも異常を見逃したら後で問題になるので、必要のない検査もしておいた方が賢明という意識があるのです。もう一つは、CT装置は高額なので、機械の維持費を賄うためには、少しでも多くの撮影をしなければならないのです。ですから、念のためという言葉を多用して、CTなどの放射線を使うのです。

 皆さんは、日本人の診療放射線の被ばく量が世界一であることや、日本で癌に罹る人の3%以上はこの被曝が原因であることをご存知でしょうか?2004年のオックスフォード大学が15か国を調査した結果なのです。被ばく量が多いのはCT検査で、その被ばく量は胸部レントゲンの200~300倍と、非常に大きいのです。さらに、日本の人口当たりのCTの普及率は段突で世界一なのです。福島の原発事故では神経質になった日本人も、CTなどの診療放射線被ばくには全くと言っていい程無頓着なのです。医師の方も、CTなどの放射線診療機器の有用性は教育されるのですが、放射線の被ばくと発がんの関係の教育は受けませんから、その危険性を認識していないことがほとんどなのです。実際、大学病院でがんの手術を受けた方の相談で、退院後の診察で毎週CT撮影をしていると伺った時、「せっかく良くなったのに、毎週のCT撮影であびる放射線で癌になってしまう」と驚き、回数を減らすようにアドバイスしたことがあります。患者の健康や命をあずかる医師は、教わらなくても放射線の危険性を自分でしっかりと勉強しなくてはいけないのですが。

がん検診で死亡率は低下しない

2013年10月10日

    上記のように、ドックや健診は病人を作るのが主目的であるので、医療経営に潤いを与えることはあっても、死亡率の低下に貢献することはありません。実際、18万人以上の患者を対象にした臨床研究(2012年、Krogsboll LT)でも、心血管死亡率への定期検診の有用性は無いとの結果になっています。この研究では、がん死亡率との関係も調べていますが、受信者と定期検診を受けなかった者とは、がん死亡率に全く差がありませんでした。一般的な検診は、死亡率の低下には無意味なのです。

    がん検診の表向きの名目は、早期にがんが発見できるので、死亡率が下がるという大義名分です。日本人の死因の第1位はがんであり、約3割を占めています。ですから、がん検診が有効であるという神話に対して、殆どの日本人は疑いを持ちませんが、本当は意味がないのです。その根拠を示します。最初は卵巣がんの検診ですが、結論は、逆に死亡率を上げたので、検診は有害と報告されています(2011年 Buy)。この研究は、55~74歳の8万人の女性で、血液のCA-125 と経膣超音波検査が、年1回で6年間行われています。その結果、卵巣がんでの死亡率(1年間に1万人当たり)は、受診者群は3.1人で、受診していない群では2.6人でした。即ち、卵巣がんの検診を受けた群の方が死亡率は高いのです。その上、検診の偽陽性の約3000人のうち3分の1の約1000人が外科的フォローアップを受けた結果、15%が深刻な合併症を発症したのでした。この人達は、検診を受けなければ健康で過ごせたのです。卵巣がん検診は、無意味というより有害なのです。

 女性の乳がん検診のマンモグラフィーも多くの女性が受診していますが、これも乳がんの死亡率低下には寄与しないと報告されています。乳がんは、近年その死亡者数が増加していることから、女性の検診希望者が多くなっています。しかし、デンマークの1997~2006年の研究では、マンモグラフィーには乳がんの死亡率を下げる効果は無いと報告されています。さらにカナダの予防医学委員会でも、40歳代のマンモグラフィー検診は必要なしとの報告をしています。実際、マンモグラフィーは偽陽性の多い検査法です。この調査でも約3人に1人は偽陽性で、その内の10人に1人はバイオプシー(生検)を受けているのです。マンモグラフィーによる放射線の被曝に加え、偽陽性による精神的ストレスがあります。これは、偽陽性といわれることで精神的な落ち込みがあり、精密検査の結果が出るまでの間は、ストレスで熟睡できない方も多いのです。さらに、約30人に1人の生検は、肉体的な侵襲を伴っています。病院にとっては、検査料が入るのでメリットは大きいのですが、患者にとってリスクは多くてもメリットは少ないのです。

 男性では前立腺がんの検査として、PSAが汎用されています。では、PSAで前立腺がんの死亡率は低下しているのでしょうか?2012年のオックスフォード大学の76000人の研究でも、前立腺がんの死亡率を低下させないと報告されています。この研究では、検診を受けているグループと受けていないグループで比較すると、前立腺がんの累積発生率と死亡率は、どちらも検診を受けたグループで僅かに高いという逆の結果だったのです。即ち、定期的にPSAを測定しても、前立腺がんを早期に発見して死亡率を下げることには寄与しないのです。PSAとは前立腺から分泌される蛋白質なので、前立腺の大きさと比例して値が高くなり、また炎症やがんで刺激されることにより分泌量が増大します。従って、PSAテストは前立腺がんの発見には役に立つのですが、死亡率の低下には貢献しないのです。例え前立腺がんと診断されても、PAS値が4 ng/ml 以下の場合、半数以上は悪性度の低く、経過観察で良い症例です。しかしながら、約半数の患者ではこの段階で切除術が行われ、過剰と考えられる治療がなされています。2012年の国立がん研究所の推定では、約25万人が前立腺がんを発症し、約2.8万人が本症関連で死亡するとしています。この内、PSAのスクリーニング検査の恩恵はどの位あるのでしょうか?アメリカの予防サービスたすくフォースの勧告では、PSAのスクリーニングテストで発見された症例のうち、90%の患者は手術などの治療を受けるのですが、実際に前立腺がんによる死亡を回避できるのは0.1%で、逆に手術による合併症で死亡するのは0.3%、1%以上の患者は尿失禁などの後遺症で苦しんでいるのが現状です。この数字を見ると、過剰な検査と治療の有害性が、スクリーニング検査の有用性を上回っています。これは、定期的な検査や過剰な手術などが、病院の収入源となっているのです。

 この様に、がん検診は病院の経営にとってメリットはあるのですが、患者にとっては危険が大きいことも知っておくべきです。