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がん研究最前線: ① 悪性度も見分ける造影剤

2016年06月01日

”がんの検査で汎用されているPET-CTは、目印を付けたブドウ糖を注射すると“がん”に集まるので、全身をCT撮影して目印のブドウ糖を探せば、“がん”の有無に加えて位置や大きさも捉えることができます。PET-CT検査では、5 mm程度のがんの発見が可能です。

東京大学などの研究チームが発表した新たな造影剤を用いる方法では、1.5 mmのマウスの転移肝がんを確認できた上に、その悪性度も検知できています。その原理は、図のようになっています。がん組織は酸素濃度が低いので、悪性度が高い程酸性に傾いています。そこで、酸性状態で溶けだすリン酸カルシウムと造影剤のマンガンイオンを微小なカプセルに閉じ込め、患者に投与します。この微小なカプセルは、正常な組織では血管から漏れませんが、“がん”組織の血管では比較的大きな穴があるので、ここから漏れ出て周囲の“がん”細胞へ届きます。カプセル内にある造影剤のマンガンイオンをMRIで撮影することにより、ごく初期の“がん”細胞を見出すことが可能で、さらに悪性の場合にはより強く反応します。

この方法を用いると悪性度もわかるので、治療方法の選択や予後の経過予測がより正確になる事が期待できます。

新薬の副作用調査で不正

2016年05月20日

製薬会社の「帝人ファーマ」で、医師が記入すべき新薬の副作用などの調査票を営業担当者が代筆の不正をしていたことが明らかになりました。前々回のC型肝炎治療薬の記事で、「治験で都合の悪いデータを握りつぶすのは、製薬会社の常とう手段」と書きましたが、新薬開発での不正は昔から行われていることで、病院関係者の間では周知の事実です。2年前にも、ノバルティスの降圧剤「ディオバン(一般名バルサルタン)」が脳卒中の発症抑制があるとのデータ改ざんが行われ、刑事告発さています。

では、何故に不正が行われるのでしょうか?その答えは、新薬開発の成否が会社の存亡にかかわっているからです。一般に、製薬会社の研究開発費の割合は20%前後と一般企業の数倍で、新薬開発の成功率は1万の候補物質から1つ程度と極めて低いのです。さらに、1つの新薬開発の平均費用は数十億~数百億円、開発期間は10~20年を要します。しかし、開発された新薬が画期的なものであれば、数千億円以上の利益を生み出します。従って、製薬会社の社員は、新薬の効果がより高く、副作用はより少ないと見せかけたいのです。

患者さんの中には、新薬は現行薬よりも効きが良くて副作用が少ないと信じている方も多いのですが、発売されてから隠蔽されていた重篤な副作用が発生することはしばしばです。従って、発売から2~3年経過して、一般病院での効果や副作用情報が報告されてからの使用の方が賢明なのです。また、多くの患者さんでは安価なジェネリック薬で問題ありません。最も良いのは、食事療法や運動療法で抵抗力や回復力を高め、薬は最低限しか使わないことです。

C型肝炎治療薬ハーボニーは100%ではない?

2016年05月01日

肝炎で入院する原因は、アルコールを想像する方が多いとおもいますが実際は1割以下で、ウイルス性が約 8 割と圧倒的に多いのが現状です。ウイルス性肝炎の中でも、C型は慢性化率が高く、肝がんの原因の7~8割を占めています。C型肝炎ウイルスの種類は、主に1型と2型がありますが、日本人に多い1型ウイルス(約7割)はインターフェロンが効かない難治タイプでした。

1型のC型肝炎ウイルスの特効薬として登場したのがハーボニー配合錠で、C型肝炎ウイルスのRNA合成を阻害する薬剤です。1日に1錠(1錠当たり8万円)を3か月間服用(8 x 90 = 720万円)することで、治験では100%の著効率を謳っており、C型肝炎治療の特効薬として昨夏に保険適用されました。

その後、この薬剤を用いて治療を行っている病院での報告が聞かれるようになりましたが、治癒率は100%ではないようです。A病院の例では、ウイルスが消えた後に再燃した患者は数%でした。なお、K病院の40人の患者では、ウイルスが消えた後に肝がんの発症が2人確認されています。この症例は、治療時点で初期がんがあったものと考えられます。

病院の報告から、ハーボニー配合錠は、これまでの治療薬と比較すると極めて高率にC型肝炎を治癒できるのですが、一部の患者ではウイルスの再燃が有るので、治癒率は100%ではないと推測されます。治験で都合の悪いデータを握りつぶすのは、製薬会社の常套手段ですから、再燃の患者がある程度存在することを念頭に入れておいた方がよさそうです。従って、治療後も免疫力を高く維持しておくことが不可欠であり、一定期間は再燃や発がんのないことの確認のための定期検査が必要と考えられます。

 

ブタ膵細胞の1型糖尿病患者への移植を容認へ

2016年04月20日

糖尿病の主要な病型は、1型と2型に分類されます。日本人に多い糖尿病は2型で、遺伝的に糖尿病になりやすい人が、肥満・運動不足・ストレスなどをきっかけに発病します。多くの患者は、食事療法と運動療法で血糖値をコントロール可能です。一方、1型糖尿病の原因は自己免疫疾患で、自分の膵臓のβ細胞を外敵と勘違いして攻撃して壊してしまい、インスリンが分泌できなくなり発症します。治療は、インスリン注射を一生涯続けるしかありません。

厚生労働省は、これまで動物の臓器や細胞を人へ移植することを事実上禁止していました。その最も大きな理由は、ブタのレトロウイルスなどが人へ感染する可能性でした。しかし、海外ではブタのすい臓を人に移植する臨床研究が始まり、国際学会でもレトロウイルスの人への感染がないことが報告されていました。もう一つの問題点は、異種間移植による拒絶反応の克服でした。移植細胞を、免疫細胞や抗体を通さない特殊な膜に包むことにより、拒絶反応を避けることができるようになりました。これらの最新技術により、1型糖尿病患者へのブタ膵細胞を移植する治療が容認されたのです。

1型糖尿病の治療として研究されている他の方法は、iPS細胞からβ細胞を作製して移植する方法ですが、がん化しないことの確認の研究などが必要なので、臨床応用までには未だ数年は必要な現状です。

何れの治療法であっても実用化されれば、一生涯のインスリン注射から解放されるので、1型糖尿病患者にとっては朗報です。

離婚や死別は脳卒中のリスクを高める!

2016年04月10日

離婚や死別で配偶者を失うと脳卒中のリスクが高まることを、大阪大学などの研究チームがアメリカの心臓学会誌「ストローク」に発表しました。(脳卒中とは、脳の血管がつまって発症する脳梗塞と、血管が破れて出血する脳出血とくも膜下出血を総称したものです。)

研究対象は45~74歳の男女5万人で、既婚(配偶者と同居)から非婚(配偶者と同居なし)の変化の有無と、その後の脳卒中発症リスクの関係を15年間追跡調査しています。この間に、2134人が脳卒中を発症しました。婚姻状況の変化との関連では、離婚や死別で配偶者を失った人は、脳卒中のリスクが男女ともに26%も高まる結果になりました。特に、くも膜下出血や脳出血のリスクは、男性が48%増、女性が35%増でした。なお、仕事をしていない女性が夫を失った場合には、夫がいて仕事をしている女性と比較すると、3倍も脳卒中のリスクが高くなっています。

一般的には、既婚者は非婚者(離別&死別)と比較すると健康状態が良いことが知られていました。この要因として、既婚者は精神的安定感や食生活のバランスが良いことなどが考えられます。逆に、配偶者を失うと、飲酒量の増加などの食生活の乱れや精神的および経済的な負担が悪影響を与えるものと考えられます。

前回は、笑わないと脳卒中や心臓病に成り易いことを報告しました。今回の報告と合わせると、健康で長生きするには、夫婦が円満で笑いのある家庭を作ることが重要なようです。