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乳がん

乳がん検診:マンモグラフィーの問題点

2017年02月10日

最近の小林麻央さんや北斗晶さんの闘病の報道で、乳がんへの関心が高まっています。乳がんは、女性のがんでは罹患率が最も高く、女性の全がん患者数(約422,000人)の21%(約89,000人)に達しています。乳がん患者の中で不幸にして亡くなるのは、約16%(約14,000人)です。

全快する方が多い中で、亡くなる方との違いは何処にあるのでしょうか?一つの要因は、発見されるまでの期間です。乳がんは、初期に発見されれば全快する確率が高いのですが、亡くなる方の多くは進行がんでの発見です。進行がんになるのは、検診を全く受けなかった場合や、シコリに気付きながらも放置した場合もあるのですが、検診を毎年受けて陰性の結果を受け取りながらも進行がんになっている例もあるのです。その原因が、マンモグラフィーの欠点にあります。本ブログでも2013年10月10日に、マンモグラフィーは擬陽性(間違って陽性となること)が多く、患者に肉体的および精神的負担が大きい方法であり、乳がんの死亡率低下に寄与しないと記載しました。この他にも、乳がんが進行してしまう原因である偽陰性(間違って陰性としてしまうこと)も多い検査方法なのです。

マンモグラフィーは乳腺とがんの濃密度を区別するのが難しい(苦手)検査方法なのですが、日本人女性の半数以上は乳腺密度が高い「高密度乳房(デンスブレスト)」です。従って、マンモグラフィーの検査を受けて陰性との結果を受け取っても、高密度乳房の場合にはがんの存在を見落としている場合があり、進行がんになってしまう可能性が出てきます。マンモグラフィー検査で判定不可な場合には『陰性』という表記は適切ではなく、『他方法での再検査が必要』と表記すべきなのです。

高密度乳房の検査には、超音波検査(エコー)が適しています。超音波検査は乳腺でのしこりの形や広がり具合を判別する能力が高いので、日本人の乳がん検査には適しています。乳がんの死亡率を低下させるには、現在のマンモグラフィーだけではなく、患者の体質に合わせて超音波検査を使い分けることが必要です。

追記:乳がんの発症確率は、出産回数が少ないほど高い傾向がありますので、少子化にともない乳がんの患者はさらなる増加が予測されます。発症確率を低下させる要因の一つとして運動があります。日常的に運動している人の方が乳がんの発症率は低い傾向にありますので、乳がんの発症予防と健康維持を兼ねて運動を心掛けましょう。私の研究している漢方飲料も、がん細胞を破壊するNK細胞を活性化する(2014年11月1日の「がん・予防4」)ことが確認されていますので、健康維持にお勧めです。

 

がん・予防 (2)

2014年10月10日

 3.  臓器別のがん死亡率

 平成24年に“がん”で亡くなった方は36万人で、死亡総数の28.7%と約3人に1人の割合で、死因のトップになって以来増え続けています。従って、がんを予防すれば平均寿命が延び、医療費の削減にも貢献します。

死因

 がんの罹患者数と死亡者数を下図に示しました。臓器別の死亡者数で多いのは、男性では肺、胃、大腸の順で、女性では大腸、肺、胃です。なお、男性の前立腺がんおよび女性の乳がんは罹患者が人口10万人当たり100人を超えるのですが、死亡者では共に20人を下回っています。これは、癌の種類によって発見されやすいもの、および悪性度や治癒率の高低があることを示しています。以下に、死亡率の高いがんについて説明します。

人工10万人当たりのがん罹患者(左)と死亡者数(右)

① 肺がん

 肺がんには、小細胞がんと非小細胞がん(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん)があります。肺の入り口の太い気管支部分(肺門部)には扁平上皮がんが多く発生し、喀痰検査や気管支鏡の検査が有効です。気管支の奥の肺胞がある部分(肺野部)では、殆どが腺がんで、X線検査が有効です。肺がんの原因は、喫煙が挙げられます。近年、禁煙志向が高まっているのもかかわらず肺がん患者が多いのは、肺がん発症までには長期間かかるので、以前の喫煙者が現在発症しているのです。近い将来には、禁煙の効果で肺がんの発症者は減少するものと推測されます。

②. 胃がん

 胃がんは、胃の表面の粘膜に発症し、徐々に粘膜下層、筋層、漿膜へと浸潤していきます。粘膜下層までの進行はまだ早期胃がんなので、非常に高い確率(ほぼ100%)で根治できますが、筋層より深くまで進行すると治癒の可能性が低下していきます。原因は、食生活が大きく影響すると考えられています。また、ヘリコバクターピロリ菌(ピロリ菌)の感染も、胃がんの発症に関与します。中高年では7~8割がピロリ菌に感染していますが、その内で胃がんになるのは約0.5%(200人に1人)の割合です。しかし、胃がん患者には高確率でピロリ菌の感染がみられます。抗生物質による除菌は、現在は健康保険が使えるので安くできるようになりました。副作用は、肝障害や下痢などがあります。病院は除菌を勧めますが、がんになる確率が0.5%なので、除菌をするかしないかは本人の意志次第です。ただし、すでに胃に障害がある場合には除菌が必要です。また、症状がなく除菌を望まない場合には、定期的に胃カメラなどでの検診が望まれます。

③ 大腸がん

 大腸は約2 mの長さで、結腸(上向結腸、横行結腸、下向結腸、S字結腸)、直腸、肛門の3部位に分けられます。大腸がんの発生し易い部位は、直腸35%とS字結腸34%で、約8割の大腸がんは肛門から近くの部位に発症します。初期の大腸がんであれば、内視鏡手術で簡単に除去できますし、予後も良好です。定期的に便の潜血反応や内視鏡検査を受けることで、早期発見が可能です。大腸がん発症の原因として、食の欧米化で動物性脂肪の摂取量が増えたことが挙げられます。本来、農耕民族である日本人は、農作物の食事に対応した腸の形状になっているので、洋食よりも和食が適しているのです。

4.最新のがん検査(マイクロRNA)

ヒトの体は、細胞の核内にあるから転写されたRNAにより合成されたタンパク質で出来ています。RNAの中には、タンパク質合成の遺伝情報を含まないRNA(ノンコーディングRNA)が大量に存在しています。その中でも、マイクロRNA(miRNA)と呼ばれる長さ20から25塩基ほどのRNAは、遺伝子の働きを抑制する機能を持ち、がんなどの疾患と関連することが、近年明らかになり注目されています。このマイクロRNAは、細胞内に存在するタンパク質への翻訳はされないで、他の遺伝子の発現を調節する機能を有すると考えられているRNAの一種です。ヒトには2500種類以上あり、がん患者の血液中では種類や量が変動することが明らかになったので、そのパターンを調べることで、がんの種類を特定する検査です。


開発対象となっている13種類のがんは、
胃がん、食道がん、肺がん、肝臓がん、胆道がん、膵臓がん、大腸がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、乳がん、肉腫、神経膠腫
です。1回の採血で検査が出来る上に、初期の癌も発見できるメリットがあります。現在実用化できているのは、乳がんと膵臓がんの2種類のがんで、他にアルツハイマー病があります。採血し、血中のマイクロRNAを抽出したのち、発現パターンを調べます。その有力な手法が、マイクロアレイです。この方法では数千から数万種類の遺伝子の発現パターンを短時間で網羅的に調べることができます。近い将来には、健康診断などの1回の採血で多種類のがんの有無を簡単に調べられるようになるでしょう。 

 

ホルモン剤で癌のリスク増

2014年07月01日

 重度の更年期障害に悩む患者さんは、少しでも楽になりたいとの思いからホルモン剤の投与を希望される方が少なくありません。このホルモン補充療法は、女性ホルモンを投与すること で、急激な女性ホルモン低下によって生じる、のぼせ・ほてり・発汗異常などを伴う更年期障害を改善させるものです。

  しかし、治療に使われるホルモン剤は、乳がんの発生増加と死亡増加と関係していると報告されています。閉経後の16000名を、ホルモン投与群とプラセボ群(偽薬)に分けて、約8年間観察すると、乳がんの発生率は投与群で385名に対しプラセボ群は293名で、投与群で1.25倍高くなります。乳がんでの死亡者は投与群で51名、プラセボ群では31名と、1.57倍もホルモン投与群で高くなっていますまた、このホルモン投与によって増大した乳がんリスクは、投与の中止で顕著に減少し、投与を中止すると約2年で元の状態に戻るというのです。この発表でも、8500名の女性にホルモン剤の投与を行い、8100名の女性はプラセボ群として、両者を比較しています。乳がんの発生率は、投与群で1.26倍に上昇していました。

  同様に、ホルモン剤の投与は、子宮体がんになりやすいこともわかっています。更年期障害がつらいのは理解できるのですが、医師はホルモン投与のリスクの説明を充分にすべきですし、患者側はこの説明を聞いた上で、症状の改善効果ががん発症のリスクをはるかに上回ることを納得してから行うべきです。