上記のように、ドックや健診は病人を作るのが主目的であるので、医療経営に潤いを与えることはあっても、死亡率の低下に貢献することはありません。実際、18万人以上の患者を対象にした臨床研究(2012年、Krogsboll LT)でも、心血管死亡率への定期検診の有用性は無いとの結果になっています。この研究では、がん死亡率との関係も調べていますが、受信者と定期検診を受けなかった者とは、がん死亡率に全く差がありませんでした。一般的な検診は、死亡率の低下には無意味なのです。
がん検診の表向きの名目は、早期にがんが発見できるので、死亡率が下がるという大義名分です。日本人の死因の第1位はがんであり、約3割を占めています。ですから、がん検診が有効であるという神話に対して、殆どの日本人は疑いを持ちませんが、本当は意味がないのです。その根拠を示します。最初は卵巣がんの検診ですが、結論は、逆に死亡率を上げたので、検診は有害と報告されています(2011年 Buy)。この研究は、55~74歳の8万人の女性で、血液のCA-125 と経膣超音波検査が、年1回で6年間行われています。その結果、卵巣がんでの死亡率(1年間に1万人当たり)は、受診者群は3.1人で、受診していない群では2.6人でした。即ち、卵巣がんの検診を受けた群の方が死亡率は高いのです。その上、検診の偽陽性の約3000人のうち3分の1の約1000人が外科的フォローアップを受けた結果、15%が深刻な合併症を発症したのでした。この人達は、検診を受けなければ健康で過ごせたのです。卵巣がん検診は、無意味というより有害なのです。
女性の乳がん検診のマンモグラフィーも多くの女性が受診していますが、これも乳がんの死亡率低下には寄与しないと報告されています。乳がんは、近年その死亡者数が増加していることから、女性の検診希望者が多くなっています。しかし、デンマークの1997~2006年の研究では、マンモグラフィーには乳がんの死亡率を下げる効果は無いと報告されています。さらにカナダの予防医学委員会でも、40歳代のマンモグラフィー検診は必要なしとの報告をしています。実際、マンモグラフィーは偽陽性の多い検査法です。この調査でも約3人に1人は偽陽性で、その内の10人に1人はバイオプシー(生検)を受けているのです。マンモグラフィーによる放射線の被曝に加え、偽陽性による精神的ストレスがあります。これは、偽陽性といわれることで精神的な落ち込みがあり、精密検査の結果が出るまでの間は、ストレスで熟睡できない方も多いのです。さらに、約30人に1人の生検は、肉体的な侵襲を伴っています。病院にとっては、検査料が入るのでメリットは大きいのですが、患者にとってリスクは多くてもメリットは少ないのです。
男性では前立腺がんの検査として、PSAが汎用されています。では、PSAで前立腺がんの死亡率は低下しているのでしょうか?2012年のオックスフォード大学の76000人の研究でも、前立腺がんの死亡率を低下させないと報告されています。この研究では、検診を受けているグループと受けていないグループで比較すると、前立腺がんの累積発生率と死亡率は、どちらも検診を受けたグループで僅かに高いという逆の結果だったのです。即ち、定期的にPSAを測定しても、前立腺がんを早期に発見して死亡率を下げることには寄与しないのです。PSAとは前立腺から分泌される蛋白質なので、前立腺の大きさと比例して値が高くなり、また炎症やがんで刺激されることにより分泌量が増大します。従って、PSAテストは前立腺がんの発見には役に立つのですが、死亡率の低下には貢献しないのです。例え前立腺がんと診断されても、PAS値が4 ng/ml 以下の場合、半数以上は悪性度の低く、経過観察で良い症例です。しかしながら、約半数の患者ではこの段階で切除術が行われ、過剰と考えられる治療がなされています。2012年の国立がん研究所の推定では、約25万人が前立腺がんを発症し、約2.8万人が本症関連で死亡するとしています。この内、PSAのスクリーニング検査の恩恵はどの位あるのでしょうか?アメリカの予防サービスたすくフォースの勧告では、PSAのスクリーニングテストで発見された症例のうち、90%の患者は手術などの治療を受けるのですが、実際に前立腺がんによる死亡を回避できるのは0.1%で、逆に手術による合併症で死亡するのは0.3%、1%以上の患者は尿失禁などの後遺症で苦しんでいるのが現状です。この数字を見ると、過剰な検査と治療の有害性が、スクリーニング検査の有用性を上回っています。これは、定期的な検査や過剰な手術などが、病院の収入源となっているのです。
この様に、がん検診は病院の経営にとってメリットはあるのですが、患者にとっては危険が大きいことも知っておくべきです。