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血糖値

健診データの読み方・考え方(7:糖尿病の検査データ)

2019年06月01日

糖尿病は、今や国民病になっていますが、その主原因には日本人が糖尿病になりやすい体質があります。その理由は、次のような歴史があります。日本人のルーツは農耕民族なので、カロリーの低い農作物を主食にしていたので、インスリンの分泌量が少しですんでいました。ところが、近年の飽食の時代になりカロリーの高い食べ物が増えたのですが、インスリンの分泌能力は低いままの体質は変わらないので、糖尿病を発症しやすいのです。

糖尿病の典型的な検査データを示します。空腹時の血糖値が142 mg/dl と高値なので、糖尿病が強く疑われます。その原因として、中性脂肪とγーGTが高値であることから、飲酒と過食が挙げられます。BMIも29.1で肥満があるので、長期に渡り不摂生な食生活が想像されます。クレアチニンと尿素窒素の値から、腎症の発症は無いようです。ALT(GPT)がやや高めなので脂肪肝の可能性がありますので、エコー検査や血液のコリンエステラーゼなどでの検査が必要です。また、網膜症の検査もしておくべきです。

今後は、食事療法と運動療法で生活の改善が不可欠です。

健診データの読み方・考え方(1:検査前は絶食)

2019年04月01日

今日4月1日は、新学期・新年度の始まりです。私が講義を担当している短大では、毎年この日に健康診断があります。

本ブログは、知っていると役に立つ「健診データの読み方・考え方」について、今回からシリーズでお送りします。第1回は、何故に検査前は食事をしてはいけないかを説明します。

健診の前日は夜9時までには食事を済ませ、当日も食事をしないように注意があります。その理由を、上の図に示しました。血液検査では、中性脂肪や血糖値が上昇しますので、正確な判断が出来なくなります。食事の影響は長時間残りますので、前日の深夜まで飲食していると、当日に食事をしていなくても、中性脂肪や血糖値は影響されます。

また腹部の超音波検査(エコー)では、食べ物と一緒に空気が入るので、検査が不可になります。その理由は、超音波は空気で遮断されるためです。さらに、食事をすると膵液が分泌されて、膵臓が萎縮しますので、検査しても判定不能になってしまいます。

検査前に激しい運動をすると、筋肉細胞が壊れて中の酵素(CK:クレアチンキナーゼ)が血液中に出てくるので、結果としてCKが高値になります。検査当日は、運動も控えて下さい。

 

話題の最新機器(スマホ顕微鏡、レーザー血糖測定器)

2017年09月01日

話題の最新機器を2つ紹介します。

1つ目は、スマホを利用して細菌が見える小型顕微鏡のミルキン(mil-kin;見る菌)です。最近、ポテトサラダでO-157に集団感染したニュースが頻繁に報道されていますので、細菌による食中毒への関心が高まっています。この小型顕微鏡のミルキンは、高さ約15cm、幅約18cm、奥行き約11cm、重さ約450gとコンパクトサイズですが、スマホを取り付けて顕微鏡としての機能は拡大倍率約1000倍で、1ミクロンまで観察できます。ちなみに、食中毒菌のO-157は3ミクロン、黄色ブドウ球菌は1ミクロンです。価格は99800円ですので、中小企業や個人商店でも取得可能な値段です。

2つ目は、採血不要の血糖値センサーです。糖尿病患者さんが自己血糖測定器で血糖値を計る場合は、指に針を刺して採血しますので、痛みがあり負担が大きいのが現状です。このセンサーは、指に赤外線レーザーを当てるだけで、指の血液中で吸収される光の強さで血糖値が測定できます。来年度から大学病院などで臨床試験が始まり、5年後の発売予定です。

色々な機器が開発され、健康管理にも便利な世の中になってきていますが、大切なことは感染症や病気にならないようにすることです。手洗いやうがいを習慣づけること、バランスの良い食事と適度な運動で免疫力や体力をつけるようにしましょう。

iPS細胞による治療が一歩前進

2017年04月20日

iPS細胞による治療の最大の研究課題はがん化の抑制でしたが、理研での「加齢性黄斑変性」の治療で安全宣言が出されました。この安全宣言により、iPS細胞治療は大きな前進をしました。

上記の臨床研究は、2014年に70歳の女性の皮膚から作成したiPS細胞をシート状の網膜組織にして移植したもので、手術から2年以上経過しても腫瘍ができるなどの問題が起きていないし、視力も維持できているとの論文を発表しました。

iPS細胞の安全性が確認されれば、多くの治療に応用されます。東京大学ではiPS細胞から作成した膵島をサルに移植して血糖値を下げることに成功したと報告しました。5年後にはヒトでの臨床研究が始まる予定です。1型糖尿病は、一生涯にわたってインスリン注射をしなければいけませんが、この治療法が実用化されれば、注射なしで通常の生活が送れます。

iPS細胞バンクの準備も進んでいます。本人から細胞を採取してiPS細胞を作成するには、長期の期間と多額の費用が必要になります。そこで、拒絶反応の少ない体質の人から採取した細胞を用いてiPS細胞を作成しておけば、安価に迅速な移植治療が可能になるのです。

1型糖尿病でのインスリン注射や脊椎損傷で車いす生活を余儀なくされている患者さんが、通常の生活ができる日が近いことを感じます。

 

糖尿病治療の最新研究

2017年02月01日

糖尿病は、国民病と言われるほどに多くの方が罹患しています。糖尿病の新しい治療法として、マイクロRNAを用いる方法が東北大学の研究チームから発表され、iPS細胞を用いる方法を東大医科研チームが発表しました。

マイクロRNAとは、たんぱく質を合成するRNAと異なり、塩基対が22塩基の小さなRNAで、遺伝子の発現を調整する機能を持っています。マイクロRNAは500~600種類が認識されていますが、このうちの2種類(106bと222)が膵臓のβ細胞の再生に関わっていることが明らかになりました。この2種類のマイクロRNAを糖尿病のマウスに注射すると、β細胞が増殖して、インスリンの分泌が回復し、血糖値が改善することが確認されました。

この方法は、2型糖尿病に応用が期待されます。日本人の糖尿病の95%は2型糖尿病で、不摂生な生活が原因で発症するタイプです。この2型糖尿病の患者のうちの半数以上は、経口薬やインスリンなどの薬剤は不要で、食事療法と運動療法のみで血糖コントロールが可能です。従って、第一には生活習慣の見直しが不可欠ですが、それでもコントロール不能な場合に上記のような治療法の活用が望まれます。

東大医科研チームの発表したiPS細胞を用いる方法は、健康なマウスから作ったiPS細胞をラットの子宮内で育て、その子供のラットの膵島を採取して糖尿病のマウスに移植すると、糖尿病が改善しました。この方法の特徴は、マウスとラットという異なる種で治療に必要な膵島が用意できることです。従って、ブタにヒトの膵島を作らせて移植すれば、ヒトの1型糖尿病の治療も可能になります。1型糖尿病は、自己免疫疾患などで膵島が破壊されるために、一生の間インスリン注射が必要な疾患ですので、この方法により根本的治療が期待できます。