ホームページからの健康相談(高脂血症薬は飲むべきか?)

2015年10月20日

『ホームページからの健康相談』を利用していただく方が、増えてきました。担当者としてはうれしいことです。相談内容で最も多いのは、総コレステロールまたはLDLコレステロールが正常値を越えたために薬を処方されたが飲むべきか?というものです。この内容に関してこれまでに本ブログに掲載してきた記事は、

などがありますので、これらの記事の内容を理解しやすく短くまとめてみます。

1: コレステロールの役割とは?

コレステロールの主な役割は、①細胞膜の原料、②ホルモンの原料、③胆汁酸の原料です。コレステロールは大切な栄養素で、これが無いと生命を維持する事が出来ません。また、LDLコレステロールの役割はコレステロールを必要な場所へと運ぶ運搬係として重要で、悪玉ではありません。HDLコレステロールは、余分な分を持ち帰る係です。

2: コレステロールの誤解

コレステロールが悪者扱いをされる発端は、ウサギにコレステロールを与えたら動脈硬化を起こしたといういい加減な実験報告でした。何故にいい加減かといえば、ウサギは草食動物であり、動物性のコレステロールは食べません。無理に与えれば具合が悪くなるのは当たり前ですし、このウサギの動脈硬化は血管の外側にできていたので、内側に付いて血管を詰まらせるとの根拠にはなりません。確かに、動脈硬化を起こした人の血管にはコレステロールの付着が認められるのですが、この付着は動脈硬化の炎症をコレステロールが修復していることが近年の研究で明らかになっています。コレステロールは血管を詰まらせるのではなく、修復しているのです。

3. 基準値(正常値)の不適切さ

基準値(正常値)とは、健康な人の集団において、全体の95%が入る範囲をいいます。現在の総コレステロールの基準値は、220 mg/dl以下になっています。この基準値では、中高年の約半数が異常高値になってしまいますので、基準値の上限の設定が低すぎることは一目瞭然です。昨年の人間ドック学会の報告では、健康な数万人の中高年の統計で、総コレステロールは男性254mg/dl、女性で280mg/dl、LDLは男性178mg/dl、女性で190mg/dl位までになっています。

4: 基準値設定の経緯

1976年(昭和51年)の基準値の上限は260 mg/dlだったのですが、1990年(平成2年)に高脂血症薬のメバロチンが発売された直後に、基準値は220 mg/dl に引き下げられ、一夜にして約2000万人が高脂血症患者になりました。現在のコレステロール関連の年間医療費は、なんと7500億円以上です。

5: 高脂血症で低死亡率

現在の基準値で高脂血症と診断されている人と正常域の人とを比較すると、脳卒中で入院した場合の死亡率は、高脂血症の方が逆に2分の1から3分の1に低いと報告されています。また、テレビのコマーシャルでは、有名人を使ってLDLが高いと心筋梗塞になるので“LDLが高い人はお医者さんへ”と宣伝しています。実際には、LDLコレステロールと心臓病死ならびに総死亡率との統計的関係を調べると、逆にLDLコレステロールが高い方が総死亡率は低い結果を示しています。LDLコレステロールは、基準値より高めで、男性は100~180 mg/dl位、女性は120 mg/dl 以上の方が長生きの傾向があります。現在の高脂血症の定義の矛盾は明らかです。

6.コレステロールは食事の影響なし

本年2月にアメリカの厚生省と農務省が設置した「食事指針諮問委員会」から、「コレステロールは、過剰摂取を心配する栄養素ではない」との報告書が公開されました。即ち、食事と血清コレステロールの間には明らかな相関は無いので、食事制限は必要ないということです。コレステロールの約70%は、体内で合成されます。従って、卵やイカなどの食事から沢山のコレステロールを摂取した場合には、吸収量を落としたうえに体内で合成量を減少させるので、血中のコレステロール濃度は一定に保たれます。動物性の脂肪には体内で合成できない必須脂肪酸も含まれているので、高齢者も適量の動物性脂肪を摂取する必要があります。

7: まとめ

*現在の基準値である総コレステロール220 mg/dl、LDLコレステロール140 mg/dl は、設定が低すぎるので、健康な中高年の約半数の人が異常値になる。

*現在の基準値を少し超えた人の方が、元気で長生きしている。

*コレステロールは食事に影響されないので、肉、魚、野菜、果物など、バランスよく摂ることが必要。

*薬でコレステロールを下げ過ぎると、うつ病やアルツハイマー病に罹りやすくなる。

負のイメージばかりが強調されているコレステロールですが、実際は大切な栄養素です。何が本当で何が嘘なのか、基準値を超えた場合に薬を飲むか飲まないかは、よく考えてご判断ください。