コレステロールは、重要な栄養成分であるにもかかわらず、“血液ドロドロ”の原因などの濡れ衣で悪者扱いをされ、摂取制限がいわれてきました。しかしながら、本年2月にアメリカの厚生省と農務省が設置した「食事指針諮問委員会」から、「コレステロールは、過剰摂取を心配する栄養素ではない」との報告書が公開されました。即ち、食事と血清コレステロールの間には明らかな相関は無いので、食事制限は必要ないということなのです。なお、コレステロールが血管をつまらせる原因物質との説も、誤解なのです。
上記を議論するに当たって、最初にコレステロールの働きを示します。主な役割は、①細胞膜の原料、②ホルモンの原料、③胆汁酸の原料です。コレステロールが無いと、生命を維持する事が出来ません。また、LDLコレステロールの役割はコレステロールを必要な場所へと運ぶ運搬係として重要で、悪玉と呼ばれるのは心外です。HDLコレステロールは、余分な分を持ち帰る係です。
次に、何故にコレステロールが無実の罪で悪者扱いをされるか説明します。発端は、ウサギにコレステロールを与えたら、動脈硬化を起こしたとの実験報告でした。ここで良く考えてください。ウサギは草食動物であり、動物性のコレステロールは食べません。無理に与えれば具合が悪くなるのは当たり前ですし、このウサギの動脈硬化は血管の外側にできていたので、内側に付いて血管を詰まらせるとの根拠にはなりません。これは、食塩が高血圧の原因であるとした実験と同じ間違いです。ネズミに通常の20倍位の食塩(ヒトに換算すると、1日当たり約300g)を半年間摂取させた結果から導かれたもので、現実には有り得ない実験条件なのです。実際は、多めの食塩摂取が原因で高血圧になるのは極一部の人(塩感受性を持った人)だけで、他の大部分の人では食塩は尿中に排出されて高血圧になることはありません。(ただし、既に高血圧を発症している人や、腎機能が低下している人は、摂取制限が望ましい。)この様に、間違った実験結果からコレステロールが動脈硬化説の犯人として濡れ衣を着せられ、そのコレステロールを組織に運ぶLDLコレステロールが“悪玉”になったのです。LDLコレステロールは、決して悪玉ではなく、生命維持に必要な働きをしているのです。確かに、動脈硬化を起こした血管にはコレステロールの付着が認められるのですが、この付着は動脈硬化の炎症をコレステロールが修復していることが近年の研究で明らかになっています。コレステロールは無罪であり、善人なのです。
コレステロールの約70%は、体内で合成されます。従って、食事から沢山のコレステロールを摂取した場合には吸収量を落とし、さらに合成量を調整するので、血中のコレステロール濃度は一定に保たれます。動物性の脂肪には体内で合成できない必須脂肪酸も含まれているので、高齢者も適量の動物性脂肪を摂取する必要があります。逆に、薬でコレステロールを下げ過ぎると、うつ病やアルツハイマー病に罹りやすくなることが報告されています。コレステロールは悪者ではありません。このブログでは何度も繰り返していますが、肉、魚、野菜、果物、米も、バランスよく食べることが、健康長寿の秘訣です。