iPS細胞による心筋梗塞の治療

2016年10月20日

サルのiPS細胞から作成した心筋細胞で、心筋梗塞のサルの治療に信州大学の研究チームが成功しました。治療法は、カニクイザルから皮膚細胞を採取して、iPS細胞を作成します。そのiPS細胞を心筋細胞に変化させ、心筋梗塞のサルの心臓に注射器で移植しました。移植された心筋細胞は心筋に定着して、心機能の改善が確認されました。しかしながら、不正脈が観察されたことより、その抑制が次の課題となります。

今月10日の記事で、iPS細胞のがん化を抑制する研究を紹介しましたが、iPS細胞を使用した再生医療は日々進化しています。この方法を応用して、心筋、網膜、膵ベータ細胞、神経細胞など、様々な細胞を作製してiPS細胞バンクを作っておけば、必要な時に治療に応用できるようになります。その日が近づいています。

喘息根治への研究

2016年10月10日

喘息は、アレルギー反応を起こした病原性免疫細胞が血管の外に出て、気管支に炎症を起こすことで発症します。喘息の治療には主にステロイドが使われますが、その仕組みはステロイドが免疫を抑え込むことを利用しています。従って、喘息の症状は緩和しますが、体全体の免疫力が低下するので感染症などに罹りやすくなる上に、副作用として糖尿病などの内分泌疾患も発症する可能性が高まります。この様に、ステロイドによる治療は症状を緩和するもので、喘息そのものを治療しているのではありませんし、副作用も生じます。

千葉大学の研究チームは、これまで不明だった病原性免疫細胞が血管の外に出るメカニズムを解明しました。その犯人はミル9というたんぱく質で、これが血管に付着して通り道を作ることで、病原性免疫細胞が血管外に出ていきます。従って、ミル9が機能しなくなれば炎症を起こさなくなるので、喘息は根治できるようになります。その方法として、ミル9の働きを止める抗体を作成して実験用の喘息マウスに投与したところ、病原性免疫細胞は血管の外に出なくなることが確認されました。

このミル9抑制抗体の治療法が実用化されれば、喘息のみならず、花粉症やアトピー性皮膚炎などの他のアレルギー疾患も根治の可能性があります。期待の高い研究です。

iPS細胞の実用化に前進

2016年10月01日

iPS細胞は、再生医療にとって非常に有用な治療法になることが期待されていますが、臨床応用にまでの最も大きな障害ががん化の抑制でした。慶応大学の整形外科などの研究チームが、iPS細胞のがん化を抑制する方法を開発しました。

最初に、iPS細胞の作成方法を簡単に説明します。患者から採取した皮膚細胞に4種類の遺伝子を導入すると、初期化されてiPS細胞になります。このiPS細胞は、培養条件などにより筋肉や神経細胞など様々な細胞に分化し、成長していきます。目的の細胞ができたら、患者への移植などに使用します。私が最も期待している治療のひとつは、脊椎や頸椎の損傷患者の再生治療です。iPS細胞で神経細胞をつくり、切断した神経をつなぐことで、車いす生活から自力歩行ができるようになって欲しいのです。他には、1型糖尿病でインスリン治療をしている多くの患者にベータ細胞を移植することで、インスリン注射から解放されることです。これらの治療法は、マウスの実験では既に成功しています。しかし、iPS細胞の一部ががん化してしまうので、人での治療にはこのがん化を如何に予防するかが重要な課題でした。

慶応大学の研究グループが開発した方法は、GSI(ガンマセクレターゼ阻害薬)という薬品で処理してから移植すると、神経細胞はがん化がないことを報告しました。GSIとは、細胞が多様な組織に分化する指示を出しているシグナルが働かないようにする薬品で、無限大に増殖してしまうがん細胞になることを止めるのです。研究チームでは、早ければ来年度にも、iPS細胞から作製した神経幹細胞を移植して体の機能を回復させる臨床研究を始める予定です。この方法が実用化されれば、脊椎損傷患者は車いすなしで、歩けるようになります。他の再生医療にも期待の大きな研究です。