iPS細胞の技術を解りやすく説明すると、各組織に成長した大人の細胞に4つの遺伝子を導入すると赤ちゃん細胞に逆戻りする(受精卵のように何にでもなれる状態に初期化する)ので、その後に作りたい細胞へと再成長させる技術です。このiPS細胞の研究でノーベル賞を受賞した京都大学の中山伸弥教授の研究グループが、がん細胞を攻撃するNKT(ナチュラルキラーT)細胞をヒトのiPS細胞から大量作成する方法を開発して、アメリカの科学誌ステムセルリポーツ電子版に発表しました。
血液中にあるNKT細胞は、がんの見張り役に加えがん細胞を攻撃するNK細胞などの後方支援をする細胞で、がんの防御には大切な細胞なのです(『医学博士の健康ブログ』の2014年11月20日の記事をご覧ください)。しかし、体内には少数しか無いうえに,がん患者ではその数がより減少していることが知られています。そこで、NKT細胞を大量に作成してがん患者に投与すれば、著しい回復が期待できるのです。 今回発表した方法は、人の血液中にあるNKT細胞を採取して、その細胞をiPS細胞に変えた後に再びNKT細胞に戻す方法です。この様な方法をとる理由は、血液中に少数しか無いNKT細胞ですが、一旦iPS細胞に変化させることで無限に増殖させることが可能になるのです。この方法で作成したNKT細胞では、通常持っている他の免疫細胞への攻撃支援作用の他に、自身のがん攻撃作用も確認されていますので、鬼に金棒の強力免疫細胞になっています。
現在の抗がん剤は、副作用の大きさに対して効果が小さいので、がん患者の寿命を短くしているケースの方が多いのが現状です。iPS細胞によるNKT細胞の治療が可能になると、副作用がなく高い治療効果が期待できます。さらに、この方法を応用して他の免疫細胞も大量作成すれば、がんの治療効果が格段に上昇することが期待できます。さらに、多くの感染症などもより効果的に治療できるようになるでしょう。他には、iPS細胞によるすい臓β細胞の作製で、一生涯インスリン注射が必要な1型糖尿病の完治も期待できます。iPS細胞による治療は無限の可能性を有していますので、早急な実用化が望まれます。