がん研究最前線: ③ がん細胞狙い撃ちの放射線治療

2016年06月20日

放射線治療には、X線、γ(ガンマ)線、電子線などがあり、陽子線や重粒子線による治療が一部の施設で行われています。放射線治療の利点は、手術によって切除することなく臓器をそのまま残すので、がんになる前と同じようにしておけることです。逆に、放射線治療のデメリットは、正常組織への被ばくによる食欲不振や吐き気、倦怠感、血小板や白血球の減少、放射線被ばくによる二次がん発症などがあります。従って、がん細胞のみに作用する放射線治療が望まれていました。

東京大学などの研究チームが、がん細胞のみを狙い撃ちする放射線治療を発表しました。造影剤に使う金属ガドリニウムを、がん細胞に集まりやすい成分で作ったナノカプセルに包んで投与すると、MRIでのがん組織の撮影が可能になります。さらに、患部に中性子線を当てると、ガドリニウムがガンマ線を放出するので、がん組織にのみ狙い撃ちに放射線治療が可能になります。同じような中性子を使った治療方法として現在はホウ酸を用いていますが、ガドリニウムからのガンマ線のほうががん細胞の死滅作用が強いことと、同時に画像も得られる利点があります。

中性子線を用いるので、一般病院での実用化にはまだハードルもあるのですが、小型の中性子線装置の開発も進んでいます。近い将来は、副作用の少ない放射線治療の方法となる研究です。

がん研究最前線: ② 膵臓がんを血液検査で早期発見

2016年06月10日

膵臓がんは、その症状が乏しい上に、画像検査でも見つけ難いことが知られています。従って、発見された時点で既に進行している症例が多く、5年生存率(9.2%)や10年生存率(4.9%)が低いので、最も危険ながんの一つに分類されます(本ブログ2016年2月10日)。故に、早期発見の手法確立が望まれていました。

血液検査で早期の膵臓がんを見つける手法を、東京大学の研究チームが発表しました。この測定原理は、アメリカのがんセンターの研究グループが発表した方法を応用したもので、膵臓がんの発症時には特定の20~25塩基の短いマイクロRNAが大量に現れ、これががん遺伝子にくっつくと、がん遺伝子を抑えきれなくなり、膵臓がんを発症するというものです。(マイクロRNAとは、たんぱく質を合成する通常のRNAと異なり、遺伝子が使われる量の調整などをしています。1000種類以上のマイクロRNAが見つかっています。)従って、血液中のこのマイクロRNAを正確に測定することで、膵臓がんを早期に発見できるのですが、既存の方法では血液中の量を測定することができませんでした。東京大学の研究チームの開発した方法では、化学的な処理でこのマイクロRNAの特徴的な配列のみを抜き出すことで、血液での測定を可能にしています。この方法で測定すると、膵臓がんの患者のマイクロRNA量は健常者の5倍程度の増加が認められています。さらに、膵臓がんの前段階でも既にマイクロRNAの増加があり、膵臓がんの手術後には低下することが確認されています。

今後、さらに症例数を増やして精度を向上させることで、健康診断の血液検査でも早期の膵臓がんを見つけることが可能になりますので、生存率の向上に寄与することでしょう。

がん研究最前線: ① 悪性度も見分ける造影剤

2016年06月01日

”がんの検査で汎用されているPET-CTは、目印を付けたブドウ糖を注射すると“がん”に集まるので、全身をCT撮影して目印のブドウ糖を探せば、“がん”の有無に加えて位置や大きさも捉えることができます。PET-CT検査では、5 mm程度のがんの発見が可能です。

東京大学などの研究チームが発表した新たな造影剤を用いる方法では、1.5 mmのマウスの転移肝がんを確認できた上に、その悪性度も検知できています。その原理は、図のようになっています。がん組織は酸素濃度が低いので、悪性度が高い程酸性に傾いています。そこで、酸性状態で溶けだすリン酸カルシウムと造影剤のマンガンイオンを微小なカプセルに閉じ込め、患者に投与します。この微小なカプセルは、正常な組織では血管から漏れませんが、“がん”組織の血管では比較的大きな穴があるので、ここから漏れ出て周囲の“がん”細胞へ届きます。カプセル内にある造影剤のマンガンイオンをMRIで撮影することにより、ごく初期の“がん”細胞を見出すことが可能で、さらに悪性の場合にはより強く反応します。

この方法を用いると悪性度もわかるので、治療方法の選択や予後の経過予測がより正確になる事が期待できます。