3. 臓器別のがん死亡率
平成24年に“がん”で亡くなった方は36万人で、死亡総数の28.7%と約3人に1人の割合で、死因のトップになって以来増え続けています。従って、がんを予防すれば平均寿命が延び、医療費の削減にも貢献します。
死因
がんの罹患者数と死亡者数を下図に示しました。臓器別の死亡者数で多いのは、男性では肺、胃、大腸の順で、女性では大腸、肺、胃です。なお、男性の前立腺がんおよび女性の乳がんは罹患者が人口10万人当たり100人を超えるのですが、死亡者では共に20人を下回っています。これは、癌の種類によって発見されやすいもの、および悪性度や治癒率の高低があることを示しています。以下に、死亡率の高いがんについて説明します。
人工10万人当たりのがん罹患者(左)と死亡者数(右)
① 肺がん
肺がんには、小細胞がんと非小細胞がん(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん)があります。肺の入り口の太い気管支部分(肺門部)には扁平上皮がんが多く発生し、喀痰検査や気管支鏡の検査が有効です。気管支の奥の肺胞がある部分(肺野部)では、殆どが腺がんで、X線検査が有効です。肺がんの原因は、喫煙が挙げられます。近年、禁煙志向が高まっているのもかかわらず肺がん患者が多いのは、肺がん発症までには長期間かかるので、以前の喫煙者が現在発症しているのです。近い将来には、禁煙の効果で肺がんの発症者は減少するものと推測されます。
②. 胃がん
胃がんは、胃の表面の粘膜に発症し、徐々に粘膜下層、筋層、漿膜へと浸潤していきます。粘膜下層までの進行はまだ早期胃がんなので、非常に高い確率(ほぼ100%)で根治できますが、筋層より深くまで進行すると治癒の可能性が低下していきます。原因は、食生活が大きく影響すると考えられています。また、ヘリコバクターピロリ菌(ピロリ菌)の感染も、胃がんの発症に関与します。中高年では7~8割がピロリ菌に感染していますが、その内で胃がんになるのは約0.5%(200人に1人)の割合です。しかし、胃がん患者には高確率でピロリ菌の感染がみられます。抗生物質による除菌は、現在は健康保険が使えるので安くできるようになりました。副作用は、肝障害や下痢などがあります。病院は除菌を勧めますが、がんになる確率が0.5%なので、除菌をするかしないかは本人の意志次第です。ただし、すでに胃に障害がある場合には除菌が必要です。また、症状がなく除菌を望まない場合には、定期的に胃カメラなどでの検診が望まれます。
③ 大腸がん
大腸は約2 mの長さで、結腸(上向結腸、横行結腸、下向結腸、S字結腸)、直腸、肛門の3部位に分けられます。大腸がんの発生し易い部位は、直腸35%とS字結腸34%で、約8割の大腸がんは肛門から近くの部位に発症します。初期の大腸がんであれば、内視鏡手術で簡単に除去できますし、予後も良好です。定期的に便の潜血反応や内視鏡検査を受けることで、早期発見が可能です。大腸がん発症の原因として、食の欧米化で動物性脂肪の摂取量が増えたことが挙げられます。本来、農耕民族である日本人は、農作物の食事に対応した腸の形状になっているので、洋食よりも和食が適しているのです。
4.最新のがん検査(マイクロRNA)
ヒトの体は、細胞の核内にあるから転写されたRNAにより合成されたタンパク質で出来ています。RNAの中には、タンパク質合成の遺伝情報を含まないRNA(ノンコーディングRNA)が大量に存在しています。その中でも、マイクロRNA(miRNA)と呼ばれる長さ20から25塩基ほどのRNAは、遺伝子の働きを抑制する機能を持ち、がんなどの疾患と関連することが、近年明らかになり注目されています。このマイクロRNAは、細胞内に存在するタンパク質への翻訳はされないで、他の遺伝子の発現を調節する機能を有すると考えられているRNAの一種です。ヒトには2500種類以上あり、がん患者の血液中では種類や量が変動することが明らかになったので、そのパターンを調べることで、がんの種類を特定する検査です。
開発対象となっている13種類のがんは、
胃がん、食道がん、肺がん、肝臓がん、胆道がん、膵臓がん、大腸がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、乳がん、肉腫、神経膠腫
です。1回の採血で検査が出来る上に、初期の癌も発見できるメリットがあります。現在実用化できているのは、乳がんと膵臓がんの2種類のがんで、他にアルツハイマー病があります。採血し、血中のマイクロRNAを抽出したのち、発現パターンを調べます。その有力な手法が、マイクロアレイです。この方法では数千から数万種類の遺伝子の発現パターンを短時間で網羅的に調べることができます。近い将来には、健康診断などの1回の採血で多種類のがんの有無を簡単に調べられるようになるでしょう。