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新着医療情報

中高生のピロリ菌検診

2017年03月10日

中高生を対象としたピロリ菌の検診をする自治体が拡大しています。佐賀県は2016年度から始め、鹿児島県は今年度から高校生を対象に実施の予定です。大分県や北海道でも計画中です。

ピロリ菌が胃がん発症のリスク因子であることは知られていますが、感染経路や感染による胃がん発症率などは比較的知られていないので解説します。感染経路は、子供のころに感染者の箸などからの感染が主です。一度感染すると、除菌しない限り一生涯に渡って胃の中に住み続けます。

感染率は、生まれたときはゼロですが、加齢とともに上昇して、中高年では約8割が感染しています。感染すると炎症を起こすことがありますが、症状が全くない人が殆どです。ピロリ菌に感染すると胃がんを発症すると思っている方も多いのですが、実際に胃がんを発症する確率は0.5%程度(感染者の200人に1人)です。なお、胃がんを発症しても初期段階ならばほぼ100%治癒できますので、年に1度の定期検診は必須です。

除菌は、抗生物質を1週間程度投与すれば約8割の確率で菌を除去できます。除去できなかった残りの2割の人は、抗生剤の種類を変えてさらに投与します。除菌には健康保険が適用になりますので、経済的な負担は小さくなっています。

ピロリ菌の感染率は、除菌処置などにより年々低下しています(上図)。中高生からの検診の広がりで、感染率はさらに低下することが期待されます。

 

“妊娠うつ”は大豆製品やヨーグルトで抑制

2017年03月01日

うつ病は、年々患者数の増加している疾患であり、その発症要因は精神的・肉体的なストレスによるホルモンバランスの崩れにあります。しかしながら、幸せいっぱいで幸福感を感じているはずの妊娠期間中に、“妊娠うつ”を発症する患者さんも存在します。“妊娠うつ”になり易い妊婦さんの特徴は、まじめで几帳面な性格の方です。今まで仕事や家事をバリバリこなせていたのに、妊娠を機に出来なくなったことで、自信を無くしてうつ状態に入り込んでしまうケースなどです。この“妊娠うつ”は、大豆製品やヨーグルトの摂取で発症率が低下することが、愛媛大学の研究で明らかになりました。

妊婦約1700人において、150種類の食品の摂取量と精神状態を解析しました。その結果、大豆製品(納豆、豆腐など)やヨーグルトを多く摂取したグループでは、“妊娠うつ”の発症が約6割に押さえられていました。逆に、肉(飽和脂肪酸)を多く摂取したグループでは、“妊娠うつ”になり易い傾向が見られています。

妊娠中は、抗うつ剤の使用が難しいので、ゆっくり休む事が主になりますが、上記のように食事での予防を心がけておく事も大切です。

睡眠不足で肥満

2017年02月20日

睡眠時間が不足すると肥満になる仕組みを、筑波大学と早稲田大学の研究チームがそれぞれ報告しています。筑波大学はレム睡眠との関係を、早稲田大学は食欲抑制ホルモンとの関与を示しており、両研究チームは異なる仕組みではありますが、結果として睡眠不足が肥満になる結果を導いています。

筑波大学の研究では、睡眠不足の人と十分な睡眠時間をとっている人を比べると、睡眠不足の人は高カロリーの食品をたくさん食べて肥満になり易くなることに注目しています。その原因としているのが、睡眠不足の場合は夢を見る浅い眠り(レム睡眠)が減少して、脳の前頭前皮質(思考や創造性を担う脳の中枢部分)の働きに影響を与えることで、砂糖や脂質などの高カロリー食材を過剰に食べたくなる仕組みです。

早稲田大学の研究では、睡眠時間が7時間と半分の3時間半のグループの食欲に関するホルモンを測定しています。その結果、睡眠時間が短いグループでは食欲を抑えるホルモンが減少することで、空腹感が増す結果となっていました。短い睡眠時間の場合は、空腹感から食事量が増えることで肥満につながるのです。

本ブログの2015年8月20日と9月1日の「睡眠と健康」でも書きましたが、睡眠不足では子供は学力低下、大人は糖尿病や心疾患などに罹患する確率が上昇することが知られています。女性では、肌の回復力が低下して肌荒れを起こしやすくなります。健康と美容のために、早寝早起きで十分な睡眠がとれるように心がけましょう。

 

糖尿病治療の最新研究

2017年02月01日

糖尿病は、国民病と言われるほどに多くの方が罹患しています。糖尿病の新しい治療法として、マイクロRNAを用いる方法が東北大学の研究チームから発表され、iPS細胞を用いる方法を東大医科研チームが発表しました。

マイクロRNAとは、たんぱく質を合成するRNAと異なり、塩基対が22塩基の小さなRNAで、遺伝子の発現を調整する機能を持っています。マイクロRNAは500~600種類が認識されていますが、このうちの2種類(106bと222)が膵臓のβ細胞の再生に関わっていることが明らかになりました。この2種類のマイクロRNAを糖尿病のマウスに注射すると、β細胞が増殖して、インスリンの分泌が回復し、血糖値が改善することが確認されました。

この方法は、2型糖尿病に応用が期待されます。日本人の糖尿病の95%は2型糖尿病で、不摂生な生活が原因で発症するタイプです。この2型糖尿病の患者のうちの半数以上は、経口薬やインスリンなどの薬剤は不要で、食事療法と運動療法のみで血糖コントロールが可能です。従って、第一には生活習慣の見直しが不可欠ですが、それでもコントロール不能な場合に上記のような治療法の活用が望まれます。

東大医科研チームの発表したiPS細胞を用いる方法は、健康なマウスから作ったiPS細胞をラットの子宮内で育て、その子供のラットの膵島を採取して糖尿病のマウスに移植すると、糖尿病が改善しました。この方法の特徴は、マウスとラットという異なる種で治療に必要な膵島が用意できることです。従って、ブタにヒトの膵島を作らせて移植すれば、ヒトの1型糖尿病の治療も可能になります。1型糖尿病は、自己免疫疾患などで膵島が破壊されるために、一生の間インスリン注射が必要な疾患ですので、この方法により根本的治療が期待できます。

 

鳥インフルエンザ

2016年12月10日

ヒトのインフルエンザが流行していますが、鳥のインフルエンザも全国各地で報告されています。鳥インフルエンザとは、A型インフルエンザウイルスが鳥類に感染して起きる鳥類の感染症です。

一般的には、鳥インフルエンザウイルスがヒトに直接感染する能力は極めて低く、感染してもヒトからヒトへの伝染は起こりにくいと考えられています。しかし、養鶏場などで感染した鳥と濃密に接触した場合など、大量のウイルスとの接触では感染するケースも稀に報告されています(処理をする場合には、防護服と手袋着用が必要です)。

食品中に鳥インフルエンザウイルスがあっても、十分に加熱すれば感染性がなくなるので、鶏肉や鶏卵を食べることによって人に感染したという事例の報告は有りません。また、市販されている卵は全て洗浄された上で流通しているので、生卵を食べても鳥インフルエンザに感染する確率は著しく低いと考えられます。

この様に、通常の市民生活を送る上では鳥インフルエンザウイルスの感染を恐れることはないのですが、可哀そうなのは巻き添えで殺処分されてしまうニワトリたちです。養鶏場で鳥インフルエンザウイルスの感染が確認された場合の対策は、発生地点から5~10 km 範囲のニワトリ等を直ちに全て殺処分することしかないからです。私たちのために毎日卵を提供してくれるニワトリたちにも、感染予防の方法が出来てほしいものです。