睡眠と健康: 成長ホルモン

2015年08月20日

8月も終盤になり、お子さんやお孫さんの夏休みももうすぐ終わります。この時期になると気になることが二つあります。一つ目は溜まった宿題で、本人のみならず家族総出になるお宅もあることでしょう。二つ目は、長い休みの間に夜更かし癖がついている場合は、平日パターンに戻すことです。休みが続いた時に少しずつ夜更かしになるのは、1日が25時間の体内時計をリセットするために必要な朝日を浴びなくなることが影響しています。

大人にも言えることですが、特に子供の場合は、就寝時刻と睡眠時間は健全な成長には大切です。近年では、夜更かしする子供が増えていて、夜10時を過ぎても起きている幼児が4割を超えているとの統計があり、危険な状態です。夜更かしで睡眠時間が9時間半以下の幼児は、集中力に欠けてイライラしていたり、歩き回ったりして、勉強や集団生活にも支障が出てきます。また、小学4年生の1割が高脂血症や高血糖、肥満などの生活習慣病を発症していますが、この子供たちの多くは夜更かしが影響しています。大人でも、睡眠時間が6時間以内の人は、7~9時間の人と比較すると、心臓疾患や脳卒中、糖尿病の割合が明らかに高くなっています。

睡眠時間と健康状態に大きな影響を与えているのは、成長ホルモンです。成長ホルモンは、子供の体を成長させるだけではなく、大人では新陳代謝を活発にして疲労回復などの働きがあります。この成長ホルモンの分泌は、午後10時から午前2時ころ、入眠2時間後くらいで分泌が最も盛んになります。従って、幼児は8~9時で大人は10~11時くらいに就寝して、幼児は10時間、小中学生では9時間、高校生では8時間、大人では7時間程度の睡眠時間をとるのが理想です。同じ睡眠時間でも、入眠時刻が遅い場合には成長ホルモンの分泌量が減るので、成長や疲労回復に悪影響を与えます。成長ホルモンなどの知識がなかった昔の人が、寝る子は育つとか、早起きは三文の得などと言っていたのは、成長ホルモンの健康への作用を経験的に知っていたのでしょう。成長ホルモンがより有効活用できるように、早寝早起きで充分な睡眠を心がけましょう!

 

エボラ出血熱のワクチン

2015年08月10日

エボラ出血熱(エボラウイルス病)のワクチンの臨床試験で、好結果が報告されました。

エボラ出血熱は、エボラウイルスの感染症で、潜伏期間の2~21日後に発熱、頭痛、筋肉痛に始まり、症状が進むと歯肉や消化管から出血し、致死率が非常に高いのが特徴です。感染経路は、発症者の血液や排泄物等との接触で、空気感染は有りません。エボラウイルスの5つの株のなかで人に感染するのは4株で、病原性があるのはスーダン株(致死率50~55%)とザイール株(致死率80~90%)の2種類です.

これまで治療方法が確立されていないために、アフリカのギニア、リベリア、シオラネオネの3か国で多くの死者が報告され、本年6月24日現在では患者数27476名、死者は11222名でした。この内、医師や看護師などの医療スタッフの感染者は872名、死者は507名でした。多くの方が無くなったのは残念なことですが、この方たちを助けようと尽力された医療スタッフが大勢亡くなったことは、痛恨の極みです。多くの医療スタッフが亡くなったのは、現地が貧しい地域であり、防護服や消毒設備などがけた違いに不備であることが大きな要因です。そのような悪条件の中でも、彼らは自らの危険を顧みずに医療に命をささげた“英雄”であり、このような勇気ある人たちこそが長生きして、奉仕活動を継続していただきたいものです。

エボラウイルスワクチン(VSV-ZEBOV:対ザイール株)の臨床試験は、西アフリカのギニアで行われ、エボラ出血熱患者が身近に発生して感染の危険性が高い4123人にワクチンを投与したところ、1人も感染が認められませんでした。また既に感染した患者に投与した場合にも、全員に予防効果が認められました。さらに、重大な副作用も報告されていません。このワクチンの使用により、患者の回復率は格段に向上することが期待できますし、治療に携わる医療スタッフの命を守る事が出来ることは何よりの朗報です。日本政府には、ワクチンの開発と製造への資金と人的な貢献などにより、日本の存在を世界に示していただくことを期待します。

日本では、東京都東村山市の国立感染症研究所で、エボラウイルスのような非常に危険なウイルスを扱う事が出来る施設がようやく稼働することになりました。この施設は、周辺住民の反対で建設から34年も稼働出来ずに、低いレベルの業務のみを行ってきました。周辺住民の方の不安は理解できるのですが、この様な施設を稼働させないと、エボラウイルスが日本に侵入した時の防御態勢に支障が出かねません。施設の業務を丁寧に説明することで、不安を和らげていただきたいと思います。また、エボラ出血熱の患者が出た場合の入院施設では、搬送や防御服の脱着の訓練などが行われています。空港などの検閲だけでは100%の侵入防止はできません。国内発症の場合を想定した訓練は充分にしておいて、ワクチンも早急に備蓄をしていただきたいものです。

ビールと脱水

2015年08月01日

今日から8月。酷暑は暫く続きそうです。

こんな時期には、ギンギンに冷えたビールが、灼熱砂漠の中にある緑のオアシスのように、汗で乾燥した体に水分の潤いを与えてくれるように感じます。ですが、ビールは逆に脱水をもたらすので、飲み方に注意が必要です。

アルコールには利尿作用があります。この利尿作用は、血液中の抗利尿ホルモン(ADH)の分泌を抑制することで生じます。これは、体内に取り込んだ余分な水分だけを排出しているわけではなく、アルコールに反応して尿をだすために、水分の少ない度数の高いお酒を飲むと「利尿による脱水症状」がより発生しやすくなります。さらに、飲んだお酒の水分が吸収されるまでにタイムラグがあるために、血液中に蓄えられている水分から排出されます。故に、お酒を飲んでいる最中に体が脱水状態になるという変わった現象を起こしているのです。

ビールは、アルコール度数が5.0~5.5%程度と低く、水分を沢山含んでいるので、水分補給になるようなイメージがあります。ですが、ビールはアルコールの抗利尿ホルモンの抑制の他に、含まれているカリウムが新陳代謝を活発にさせるという効果も加わり、他のお酒より利尿作用が強くでます。どの位の利尿作用があるのか計算してみます。ビールの大瓶は633 mlでアルコール濃度を5.0%とすると、1本当たり31.7gのアルコールと約600mlの水分を含んでいます。50gのアルコールの摂取で600から1000mlの利尿作用があるとのデータで計算すると、31.7gでは380~634mlになります。従って、飲んだ水分(600ml)の殆どがアルコールの利尿作用で排泄されます。その上に、カリウムの利尿作用が加わります。ビール大瓶1本当たりのカリウム量は約220 mgです。1日に食事から摂取するカリウム量は、男性2500mg、女性で2000mgですから、大瓶1本で約10分の1に相当します。カリウムは筋肉の働きに必要な他に、ナトリウムを水分とともに尿中へ排泄する利尿作用もあります。夕食に野菜や果物をたくさん食べると、夜中に何度も尿意をもよおすのは、水分の他にカリウムが多量に含まれているからなのです。従って、アルコールとカリウムを含むビールでは利尿作用が重なって、飲んだ量以上の水分が排泄されることで、逆に脱水状態を引き起こすのです。

アルコールを飲みすぎると二日酔いになりますが、これはアルコールの分解産物のアセトアルデヒドと上記の脱水が主因になっています。アルコールによる脱水症状を治すのに有効なのはスポーツドリンクです。迎え酒は、アルコールで感覚を麻痺させているだけで、体にはさらなる負担になりますので、論外です。なお、“ちゃんぽん”(色々な種類の酒を飲むこと)は二日酔いや悪酔いをするといいますが、酒の種類が変わると美味しく感じて飲みすぎるためにアルコールの総量が増えることが理由で、酒の種類のせいではありません。

美味しいビールも、飲み方によっては危険に変わります。大量に汗をかく季節は、水分を上手に摂取して、脱水状態にならない様に注意しましょう!