ゆず湯

2015年12月20日

今年もあと僅かになりました。日が短くなり、寒さが増してくると、温かい風呂が最高です。昔から、冬至(12月22日)にゆず湯に入ると、1年間風邪をひかないといわれています。ゆずには血行を促進して冷え性、神経痛、腰痛の緩和、風邪の予防効果などがあります。さらには、果皮に含まれるクエン酸やビタミンCによる美肌効果、香りによるリラックス効果もあるため、元気に冬を越すために役立ちます。ゆず湯にのんびりとつかると、体も心もリラックスして長生きできそうな気分になれます。

注意すべきは、冬の風呂場には危険が潜んでいることです。最も多いのは、ヒートショックです。寒い脱衣所で急激に上昇した血圧が、熱い湯で一気に低下することで失神して溺れる事故です。入浴中の急死は年間1万7000人程度で、そのうち浴槽内で溺死と確認された人は年間4000人以上もいるのです。昨年の交通事故の死者数は4100人ですから、入浴中の死亡者数は非常に高い数字です。なお、入浴中の死亡者は60歳以上の高齢者が殆どで、高血圧の人ほど血圧変動が大きいので注意が必要です。また、飲酒のあとの入浴も、血管が拡張するので血圧が下がり易く、危険性は増加します。年末年始はお酒を飲む機会が増えるので、酔った状態での入浴は控えましょう。

今年も1年間にわたり、本ブログをご愛読いただきまして、有難うございます。読者の皆様の健康増進のお役にたてていれば幸いです。また、無料の健康相談も実施していますのでご利用ください。では、良いお年をお迎えください。

アスピリン(鎮痛解熱剤)の大腸がん予防効果と危険性

2015年12月10日

アスピリンの大腸がんへの予防効果の臨床試験が、国立がん研究センターなどの20施設で始まりました。対象は、大腸がんになる危険性が高い大腸ポリープを切除した40~69歳の7000人です。

アスピリンは、解熱鎮痛剤として汎用されていますが、他にも血栓防止薬としても心疾患などの患者で用いられています。臨床医は以前から経験的に「アスピリン常用患者には大腸がんが少ない」ことを感じていたので、これまで両者の関係は小規模に検討されていました。英国の研究グループが、本年9月の医学雑誌「セル」にアスピリンが大腸がんを抑制する機序を発表しています。即ち、がん細胞は、免疫抑制物質のプロスタグランジンE2(PGE2)を作って、T細胞による免疫の攻撃を避けて生き延びています。アスピリンは、PGE2を産生する物質(COX-1およびCOX-2)の働きを抑制するので、がん細胞は免疫の攻撃を受けて衰退する機序です。この機序通りに、アスピリンで大腸がんが予防や治療できれば大きな成果です。

しかしながら、度々書いているように、薬には効果の反面としての副作用があります。予想させるアスピリンの副作用は、大きく3つが考えられます。第1に、胃の障害を引き起こす可能性が高いことです。特に、ピロリ菌感染者では出血性の胃潰瘍などの確率が高まりますが、日本人の中高年では半数以上がピロリ菌の感染者です。第2に、アスピリンは血液の凝固を阻害して出血傾向が高まるので、脳内出血が増えることや交通事故等の出血では命の危険性が高まります。第3に、解熱作用で体温が低下すると、免疫力の低下を招いて感染症の可能性が高まります。

臨床研究自体は、意味があると思います。しかし、実際に使用すべきか否かは、アスピリンによる大腸がんの予防効果と副作用による危険性のどちらが重いかの結果次第です。私の基本的な考え方は、薬よりも食生活の改善や運動などによる免疫力向上と定期健診で対応すべきです。

「血圧120 mmHg未満で病死27%減」の本当の意味

2015年12月01日

医学研究者なら誰でも知っている世界の一流医学雑誌のNew England Journal of Medicineに、「血圧120 mmHg未満で病死27%減」に関する論文が発表されたことを、多くのメディアが報じました。この題目だけなら、血圧は低くした方が良いと受け取れますし、私が本ブログで書いてきた「中高年の血圧130~150 mmHgは薬不要」という記事は間違いなの?と思われるかもしれません。しかし、この論文の中身を正しく理解していただければ、血圧を120 mmHg以下にする必要はないことがお解りいただけます。

この研究では、患者群を血圧140 mmHg以下にする群(4678名)と、120 mmHg以下にする群(4683名)の2群に分けています。両群の人数は、ほぼ同じです。3年半の研究期間の後に、140の群では210名(4.5%)が死亡し、120の群では155名(3.3%)が死亡しています。従って、(4.5-3.3)÷4.5=0.27 (27%)から、120の群で死亡率が27%減少したとの結論に至っています。確かに、計算は間違いではありませんが、実際に差があるのは210-155=55人なので、4600名からみると僅かに1.2%の差しかありません。この手法は、研究者が自分の研究成果を誇張したい時に用いて、インパクトを大きくしているのです。

逆に、急性腎不全および急性腎障害で救急搬送された患者は、120以下の群では2倍近くおり、低血圧で救急搬送された患者も1.5倍多くなっています。この一因として、降圧剤を多量に使用することの副作用が考えられます。また、両群の肥満度の指数であるBMIは、29.8と29.9の著しい肥満患者です。このBMIは、日本人の一般的な身長である175 cmでは体重が92 kgに相当します。BMI>30の肥満率は、アメリカ人では35~36%と高いのですが、日本人では3~4%程度と低いので、この患者群での研究結果をそのまま日本人にあてはめるのは適当ではありません。この英語の論文を原文で読む日本人は殆どいないのを良いことに、製薬会社や病院に都合の良い情報のみがメディアで報じられているのです。

日本人を対象としたこれまでの研究で、降圧剤で血圧を20 mmHg以上下げる群では、20以内の低下群と比較すると、脳梗塞発症率が高くなり、総死亡率が1.5~5倍も高くなっています。さらに、転倒や交通事故の確率が増加し、うつ等による自殺や認知症に成り易いことが知られています。これは、血圧が低すぎることで脳の神経細胞に栄養分や酸素が十分に供給されないことによると考えられます。

本ブログでこれまで書いてきたように、中高年の血圧130~150 mmHgは問題ありません。降圧剤による大幅な血圧の低下は逆に危険が多いので、肥満の解消や有酸素運動での血流改善を基本に考えてください。製薬会社や病院に都合の良いメディアの情報を鵜呑みにせず、薬は必要最小限度に!