健常人を病人にする方法(2:高コレステロール血症)

2013年10月30日

前項の様に、多項目の検査をすれば大部分の健常者を病人に仕立て上げることが出来るのです。これに加えて、多くの病人を作る方法がもう一つあるのです。それは、基準値を厳しく設定することなのです。前項で説明しましたように、基準値は健常者の95%が入る範囲なのですが、例えば、健常者の半分が入る範囲に狭めれば、残りの半分は病人になります。この最も典型的なものは、総コレステロールと血圧なのです。では、総コレステロールの分布範囲と基準値の関係を図に示します。全体の95%が入る範囲は2SDとして表現してあります。基準値は赤い太線で示してあります。本来は2SDと基準値は同じになるはずなのです。しかしながら、下図では2SDの範囲と基準値の範囲が大きくずれていることがお分かりでしょう。特に、中高年の男性では約の半分が異常高値になっていますし、女性でも中高年の三分の一位が基準値をオーバーしています。従って、病人を沢山作るための基準値が設定されていることが一目瞭然です。
*標準偏差(Standard Deviation)は、平均値に対する観測データの散らばりをあらわす記述統計量で、SDと省略して表現されます。変数が正規分布にしたがう場合は、平均値から1×標準偏差の範囲内に、約68%の観測データが含まれることを意味します(2×標準偏差で考えると約95%が含まれます)。

では、何時から何故にこの基準値が設定されたのでしょうか?私が就職した1976年(昭和51年)には、総コレステロールの基準値は260 mg/dlだったのです。それが1990年(平成2年)には250 mg/dlになり、その後に基準値は220 mg/dl に引き下げられているのです。何故にこの様な基準値の変更があったのでしょうか?その要因は、高脂血症薬メバロチンの発売が関係しているとしか考えられません。メバロチンの発売時期は1990年(平成2年)で、総コレステロールの基準値が220 mg/dl に引き下げられたのが、その半年前なのです。総コレステロールの基準値が220 mg/dlに変更されると、一夜にして約2000万人に高脂血症という病名が付けられ、病人にされたのです。一部の心ある医療関係者の間では、メバロチンを販売するために、御用学者に総コレステロールの基準値を引き下げるための研究報告をさせたという話題があったのです。実際、現在のコレステロール関連の年間医療費は、なんと7500億円以上なのです。
では、本当に総コレステロールの基準値は220 mg/dl が妥当なのでしょうか?長生きした人の総コレステロールの値を統計的にみてみると、240~280 mg/dl が最も長生きしているのです。即ち、上図で示した健常人の2SDの範囲である95%の健常人が入る範囲が良いことになります。ですから、1916年に示された260 mg/dl の基準範囲が適切であるのです。

逆に、高脂血症と診断されている人の方が、高脂血症でない人と比較して、脳卒中で入院した場合の死亡率は2分の1から3分の1に低いと報告されています。脳梗塞では、高脂血症のない人約9900人の内で死亡は5.5%であるのに対し、入院時に高脂血症と診断された人約2300人の死亡は2.4%でした。脳出血では、高脂血症のない人約2800人の内で死亡は13.4%であるのに対し、入院時に高脂血症と診断された人約440人の死亡は6.3%でした。くも膜下出血では、高脂血症のない人約1300人の内で死亡は17.3%であるのに対し、入院時に高脂血症と診断された人約2300人の死亡は6.3%と、いずれも高脂血症患者で低かったのです。この要因として、コレステロールが血管を作る材料になるので、高脂血症患者の方が血管の状態が良いことが挙げられます。となると、高脂血症の定義自体が怪しいことは明らかです。
コレステロールは、何故か悪者扱いされて、その危険性がアピールされています。しかし、コレステロールの生体内での役割は全くと言っていい程に示されていません。実際、皆さんはコレステロールが体の中でどの様な働きをしているのかご存知ですか?コレステロールの最も重要な働きは、生体内で細胞膜や各種ホルモンの材料となることなのです。従って、コレステロール150 mg/dl 以下にしてしまうと、これらの材料が十分に提供できなくなってしまうのです。また、うつ病の発生率が高くなるとの報告や、発がん率がとの報告もあるのです。
同様に、悪玉コレステロールと呼ばれるLDLコレステロールの基準値は140  mg/dl 以下になっています。テレビのコマーシャルでは、有名人を使ってLDLが高いと心筋梗塞になるので“LDLが高い人はお医者さんへ”と宣伝しています。LDLコレステロールと心臓病死ならびに総死亡率との関係を図に示しました。統計的には、LDLコレステロール値と心臓病死との間には相関は無いのです。逆に、総死亡率はLDLコレステロールが高い方が低い結果を示しています。LDLコレステロールは、基準値より高めで、男性は100~180 mg/dl、女性は120 mg/dl 以上が長生きの傾向があるのです。日本脂質学会では、血中脂質を薬で下げすぎると危険であると警告していますが、まさにその通りなのです。私は、日本脂質学会の言い分が正しいと考えています。基準値を少々超えても問題ありません。もし、下げようとする場合には、先ずバランスの良い食事と適度な有酸素運動を試みるのが健康的と言えます。

健常人を病人にする方法(1:基準値のからくり)

2013年10月20日

健康な人を病人にする方法には、大きく2つの方法があります。1つ目は、生化学検査や血液学的検査で測定項目を増やすことなのです。これでなぜ病人が作れるかと思われるでしょうが、次のようなカラクリがあるのです。それは、各測定項目にはそれぞれ基準範囲があります。この基準範囲がどのように決められているのかをご存知の方はあまりいないでしょうから説明します。
基準範囲とは、健康な人(健常者)を沢山集めて、その内の95%の人が入る範囲なのです。解り易くするために、仮に100人の健常者を集めたとします。その人たちである検査項目を測定した時に、95人が入る範囲が基準値なのです。ですから、残りの5人の健常者は、この範囲から外れます。即ち、2.5人は低めに外れて、2.5人は高めに外れます。この方たちは、その測定項目に関して生まれつき低いまたは高い体質なのです。基準値を外れたから即異常ということではありません。

健常者で1項目を測定した場合は、上記の様に、基準範囲に入る確率は95%(0.95)なので、2項目の測定では 0.95 x 0.95 = 0.90 になりますので、100人中では90人が正常で、残りの10人は基準値を外れます。さらに多項目の測定をした場合、異常無しの確率はどの位になると思いますか?なんと、10項目では0.60、20項目なら0.36、30項目で0.21、40項目は0.13、50項目では0.08になるのです。異常無しは、健常者100人の内たったの8人だけなのです。残りの92人の健常者は、結果の表に赤い字で“H”と書かれます。すると、多くの方は動揺して、本当に病人になった気分に変化していくのです。これが病院へ招き入れる手口になることを知っておきましょう。


この様に、多項目を測定すると、異常値のHマークをつけられる人が多く出ます。この中の多く方達は、遺伝的に高い値の要素を持った健常者なのですが、一部には病的に上昇した人も入っています。では、どの様に病人かを見分ければ良いのでしょうか?例えば、今年の検診の測定値が120だったとします。当然、Hマークがついてきます。この場合、体質が原因なのか、それとも体に異常があるのかは、検査データを見慣れた医療関係者なら他の検査結果を含めたデータ全体のバランスで判断します。しかし、一般の方にはこれはできません。簡単は判断の仕方は、一昨年も昨年も今年もずっと120だった場合には、体質的な結果の可能性が高いと考えます。一方、昨年や一昨年の結果が80位で、今年になって急に120に上昇した場合には、病的な要因が発生している可能性が高いと考えます。この様な場合は、専門家の判断を仰いだ方が賢明です。

がん検診で死亡率は低下しない

2013年10月10日

    上記のように、ドックや健診は病人を作るのが主目的であるので、医療経営に潤いを与えることはあっても、死亡率の低下に貢献することはありません。実際、18万人以上の患者を対象にした臨床研究(2012年、Krogsboll LT)でも、心血管死亡率への定期検診の有用性は無いとの結果になっています。この研究では、がん死亡率との関係も調べていますが、受信者と定期検診を受けなかった者とは、がん死亡率に全く差がありませんでした。一般的な検診は、死亡率の低下には無意味なのです。

    がん検診の表向きの名目は、早期にがんが発見できるので、死亡率が下がるという大義名分です。日本人の死因の第1位はがんであり、約3割を占めています。ですから、がん検診が有効であるという神話に対して、殆どの日本人は疑いを持ちませんが、本当は意味がないのです。その根拠を示します。最初は卵巣がんの検診ですが、結論は、逆に死亡率を上げたので、検診は有害と報告されています(2011年 Buy)。この研究は、55~74歳の8万人の女性で、血液のCA-125 と経膣超音波検査が、年1回で6年間行われています。その結果、卵巣がんでの死亡率(1年間に1万人当たり)は、受診者群は3.1人で、受診していない群では2.6人でした。即ち、卵巣がんの検診を受けた群の方が死亡率は高いのです。その上、検診の偽陽性の約3000人のうち3分の1の約1000人が外科的フォローアップを受けた結果、15%が深刻な合併症を発症したのでした。この人達は、検診を受けなければ健康で過ごせたのです。卵巣がん検診は、無意味というより有害なのです。

 女性の乳がん検診のマンモグラフィーも多くの女性が受診していますが、これも乳がんの死亡率低下には寄与しないと報告されています。乳がんは、近年その死亡者数が増加していることから、女性の検診希望者が多くなっています。しかし、デンマークの1997~2006年の研究では、マンモグラフィーには乳がんの死亡率を下げる効果は無いと報告されています。さらにカナダの予防医学委員会でも、40歳代のマンモグラフィー検診は必要なしとの報告をしています。実際、マンモグラフィーは偽陽性の多い検査法です。この調査でも約3人に1人は偽陽性で、その内の10人に1人はバイオプシー(生検)を受けているのです。マンモグラフィーによる放射線の被曝に加え、偽陽性による精神的ストレスがあります。これは、偽陽性といわれることで精神的な落ち込みがあり、精密検査の結果が出るまでの間は、ストレスで熟睡できない方も多いのです。さらに、約30人に1人の生検は、肉体的な侵襲を伴っています。病院にとっては、検査料が入るのでメリットは大きいのですが、患者にとってリスクは多くてもメリットは少ないのです。

 男性では前立腺がんの検査として、PSAが汎用されています。では、PSAで前立腺がんの死亡率は低下しているのでしょうか?2012年のオックスフォード大学の76000人の研究でも、前立腺がんの死亡率を低下させないと報告されています。この研究では、検診を受けているグループと受けていないグループで比較すると、前立腺がんの累積発生率と死亡率は、どちらも検診を受けたグループで僅かに高いという逆の結果だったのです。即ち、定期的にPSAを測定しても、前立腺がんを早期に発見して死亡率を下げることには寄与しないのです。PSAとは前立腺から分泌される蛋白質なので、前立腺の大きさと比例して値が高くなり、また炎症やがんで刺激されることにより分泌量が増大します。従って、PSAテストは前立腺がんの発見には役に立つのですが、死亡率の低下には貢献しないのです。例え前立腺がんと診断されても、PAS値が4 ng/ml 以下の場合、半数以上は悪性度の低く、経過観察で良い症例です。しかしながら、約半数の患者ではこの段階で切除術が行われ、過剰と考えられる治療がなされています。2012年の国立がん研究所の推定では、約25万人が前立腺がんを発症し、約2.8万人が本症関連で死亡するとしています。この内、PSAのスクリーニング検査の恩恵はどの位あるのでしょうか?アメリカの予防サービスたすくフォースの勧告では、PSAのスクリーニングテストで発見された症例のうち、90%の患者は手術などの治療を受けるのですが、実際に前立腺がんによる死亡を回避できるのは0.1%で、逆に手術による合併症で死亡するのは0.3%、1%以上の患者は尿失禁などの後遺症で苦しんでいるのが現状です。この数字を見ると、過剰な検査と治療の有害性が、スクリーニング検査の有用性を上回っています。これは、定期的な検査や過剰な手術などが、病院の収入源となっているのです。

 この様に、がん検診は病院の経営にとってメリットはあるのですが、患者にとっては危険が大きいことも知っておくべきです。