がん・予防(3)

2014年10月20日

5. 日常生活でのがんの予防
がんには、医学的に確立された予防法は存在しません。しかしながら、がんの発症には喫煙(30%)、食事(30%)、運動不足(5%)、飲酒(3%)などの生活習慣が間接的に関与すると考えられています(ハーバード大学がん予防センター)。従って、がんを予防するには次の項目の生活習慣の改善が望まれます。

5-1. 体型(BMI)
肥満は、直接的にがんの発症には関与しないと言われています。しかし、最近に国立がん研究センターが発表した研究では、肥満は日本人女性が乳がんになる危険性を高めるとのことです。調査結果では、閉経前でも後でもBMIが大きいほど危険性は高まり、閉経前にBMI 30以上の肥満では基準値内(23~25)の人の2.25倍で、閉経後ではBMIが1上がるごとに危険性が5 %上昇しました。なお、欧米では、閉経前は肥満が乳がん発症リスクを下げる調査結果が報告されているので、人種により異なることが考えられます。
BMIの計算式は、体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)です。
実際に長生きしている方のBMIは、基準値の25を少し超えたやや肥満です。しかし、病気になる確率が最も低いのは、男女ともに22で、痩せも肥満も病気をする確率が高くなります。従って、健康で長生きするためには、BMIが22~25位の範囲になる事が望まれます。

5-2. バランスの良い食事
野菜や果物にはビタミン類や食物繊維など、がん予防だけでなく、健康維持に必要な成分も含まれています。特に、季節の旬の野菜(露地物)は栄養価が高いうえに、暑さ寒さへの対策にもなる成分を含んでいます。毎食毎に野菜を摂取し、果物もデザートとして毎日1回以上は食べるようにしましょう。食後の緑茶は、健康維持やがん予防にも効果的です。なお、中高年にとって肉類はコレステロースや中性脂肪を上昇させるので良くないとの考えから、菜食主義の方もおられます。肉類は、食べすぎるのが良くないのであって、適量をバランスよく食べることが、健康維持には必要です。なお、料理や飲み物が熱過ぎると、食道などの消化管を痛め、がんを誘発しかねません。適温で。
塩分の摂り過ぎは高血圧になると言われていますが、実際には2~3割位の少数の塩感受性を持った人だけで、残りの7~8割では塩分は尿中排泄されるので高血圧にはなりません。しかし、すでに高血圧になっている場合には塩分はさらに血圧を上昇させますし、腎機能が低下している場合には負荷がより大きくなります。また、塩感受性があるか否かは検査をしないとわからないので、塩分制限が必要ということは間違いではありません。

5-3. 有酸素運動
有酸素運動の代表といえば、ウォーキング(早歩き)です。歩くことが健康に良いことは誰でも知っていますが、何故に良いのかご存知でしょうか?その答えは、心臓から全身に送り出された血液が、どの様に心臓に帰ってくるかを考えればわかります。例えば、足の血液は重力があるので、自然に心臓に帰ることはできません。足の筋肉が伸縮を繰り返して、心臓まで押し上げているのです。従って、足の筋肉が発達している程、血液循環が良くなるので、酸素や栄養分を全身に届けやすく、老廃物の回収率も良くなります。また、血液の流れが良くなるので、血圧も安定します。さらに、ラジオ体操で全身の曲げ伸ばしをすることで、効果がアップします。毎日30~60分程度の有酸素運動が、健康維持には必要です。

5-4. 禁煙
タバコは、肺がんとの関連が強く指摘されている上に、血管を細く固くして血圧を上昇させるなど、百害あって一利無しです。近年、禁煙志向が高まっているにもかかわらず肺がん患者が多いのは、肺がん発症には長期間かかるので、以前に喫煙していた人が今発症していると考えられます。今後は、喫煙率の低下で肺がんの罹患率や死亡率も低下していくでしょう。

5-4. 飲酒は適量に
酒は百薬の長といわれるように、1合以内の酒(ビールでは大瓶1本以内)は血行を改善し、血圧を調整するなど、薬として作用します。実際に、適量の飲酒をする人の方が長生きなのは統計学でも証明されています。しかし、1合以上の酒は、肝臓に負担をかけ、血圧を上昇させるなど、毒として作用します。“過ぎたるは及ばざるが如し”です。なお、日本人の半分以上は遺伝的にアルコールを分解する能力がありません。飲めない体質の方には、少量でも薬にはなりませんので、無理に飲む必要はありません。

5-5. C型肝炎ウイルス、ピロリ菌
肝炎ウイルスの内、A型は慢性化しません。B型は、乳幼児期の免疫力の弱い時期の感染か、大人の場合は透析患者のような免疫力が極端に低下した場合以外は、慢性化しません。問題なのはC型肝炎ウイルスで、60~80%位の高い確率で慢性化し、肝硬変、肝がんへと進行します。肝臓がんの約80%は、C型肝炎が原因です。インターフェロンとリバビリンの併用で治療しますが、日本人に多いウイルスのタイプである1型の場合(約70%)には、成功率は50%以下と低いのが現状です。ウイルスタイプが2型(約30%)ならば、約70%以上の確率でウイルスを消去できます。C型肝炎ウイルスに感染しても、肝臓がんに進行するまでには平均30年近くかかりますので、60歳代以上で、軽度の慢性肝炎程度ならば、治療の有無で計算上の寿命は変わらないことになります。治療には、微熱や食欲不振などの副作用が高率で見られます。年齢、ウイルスのタイプと量、肝炎の進行度などを総合的に判断して、治療を考えるべきと思います。
ヘリコバクターピロリ菌(ピロリ菌)の感染は、上述のように、胃がんの発症に関与します。中高年では7~8割がピロリ菌に感染していますが、その内で胃がんになるのは約0.5%(200人に1人)の割合です。除菌を選択すべきか、または定期検診で初期発見を選ぶかは、本人の考え方でしょう。

以上、がんの予防として述べましたが、これらは生活習慣病の予防と基本的に同じです。免疫力を高めて、健康な生活を送ることが、即ちがん予防につながります。
次回は、美露仙寿のがん予防の研究成果についてです。お楽しみに!

がん・予防 (2)

2014年10月10日

 3.  臓器別のがん死亡率

 平成24年に“がん”で亡くなった方は36万人で、死亡総数の28.7%と約3人に1人の割合で、死因のトップになって以来増え続けています。従って、がんを予防すれば平均寿命が延び、医療費の削減にも貢献します。

死因

 がんの罹患者数と死亡者数を下図に示しました。臓器別の死亡者数で多いのは、男性では肺、胃、大腸の順で、女性では大腸、肺、胃です。なお、男性の前立腺がんおよび女性の乳がんは罹患者が人口10万人当たり100人を超えるのですが、死亡者では共に20人を下回っています。これは、癌の種類によって発見されやすいもの、および悪性度や治癒率の高低があることを示しています。以下に、死亡率の高いがんについて説明します。

人工10万人当たりのがん罹患者(左)と死亡者数(右)

① 肺がん

 肺がんには、小細胞がんと非小細胞がん(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん)があります。肺の入り口の太い気管支部分(肺門部)には扁平上皮がんが多く発生し、喀痰検査や気管支鏡の検査が有効です。気管支の奥の肺胞がある部分(肺野部)では、殆どが腺がんで、X線検査が有効です。肺がんの原因は、喫煙が挙げられます。近年、禁煙志向が高まっているのもかかわらず肺がん患者が多いのは、肺がん発症までには長期間かかるので、以前の喫煙者が現在発症しているのです。近い将来には、禁煙の効果で肺がんの発症者は減少するものと推測されます。

②. 胃がん

 胃がんは、胃の表面の粘膜に発症し、徐々に粘膜下層、筋層、漿膜へと浸潤していきます。粘膜下層までの進行はまだ早期胃がんなので、非常に高い確率(ほぼ100%)で根治できますが、筋層より深くまで進行すると治癒の可能性が低下していきます。原因は、食生活が大きく影響すると考えられています。また、ヘリコバクターピロリ菌(ピロリ菌)の感染も、胃がんの発症に関与します。中高年では7~8割がピロリ菌に感染していますが、その内で胃がんになるのは約0.5%(200人に1人)の割合です。しかし、胃がん患者には高確率でピロリ菌の感染がみられます。抗生物質による除菌は、現在は健康保険が使えるので安くできるようになりました。副作用は、肝障害や下痢などがあります。病院は除菌を勧めますが、がんになる確率が0.5%なので、除菌をするかしないかは本人の意志次第です。ただし、すでに胃に障害がある場合には除菌が必要です。また、症状がなく除菌を望まない場合には、定期的に胃カメラなどでの検診が望まれます。

③ 大腸がん

 大腸は約2 mの長さで、結腸(上向結腸、横行結腸、下向結腸、S字結腸)、直腸、肛門の3部位に分けられます。大腸がんの発生し易い部位は、直腸35%とS字結腸34%で、約8割の大腸がんは肛門から近くの部位に発症します。初期の大腸がんであれば、内視鏡手術で簡単に除去できますし、予後も良好です。定期的に便の潜血反応や内視鏡検査を受けることで、早期発見が可能です。大腸がん発症の原因として、食の欧米化で動物性脂肪の摂取量が増えたことが挙げられます。本来、農耕民族である日本人は、農作物の食事に対応した腸の形状になっているので、洋食よりも和食が適しているのです。

4.最新のがん検査(マイクロRNA)

ヒトの体は、細胞の核内にあるから転写されたRNAにより合成されたタンパク質で出来ています。RNAの中には、タンパク質合成の遺伝情報を含まないRNA(ノンコーディングRNA)が大量に存在しています。その中でも、マイクロRNA(miRNA)と呼ばれる長さ20から25塩基ほどのRNAは、遺伝子の働きを抑制する機能を持ち、がんなどの疾患と関連することが、近年明らかになり注目されています。このマイクロRNAは、細胞内に存在するタンパク質への翻訳はされないで、他の遺伝子の発現を調節する機能を有すると考えられているRNAの一種です。ヒトには2500種類以上あり、がん患者の血液中では種類や量が変動することが明らかになったので、そのパターンを調べることで、がんの種類を特定する検査です。


開発対象となっている13種類のがんは、
胃がん、食道がん、肺がん、肝臓がん、胆道がん、膵臓がん、大腸がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、乳がん、肉腫、神経膠腫
です。1回の採血で検査が出来る上に、初期の癌も発見できるメリットがあります。現在実用化できているのは、乳がんと膵臓がんの2種類のがんで、他にアルツハイマー病があります。採血し、血中のマイクロRNAを抽出したのち、発現パターンを調べます。その有力な手法が、マイクロアレイです。この方法では数千から数万種類の遺伝子の発現パターンを短時間で網羅的に調べることができます。近い将来には、健康診断などの1回の採血で多種類のがんの有無を簡単に調べられるようになるでしょう。 

 

がん・予防 (1)

2014年10月01日

1. がん(ひらがな)と癌(漢字)、腫瘍、悪性新生物の違いとは?
 “がん”の分野では、“がん”(ひらがな)、癌(漢字)、肉腫、腫瘍、または悪性新生物と複数の表現があります。この違いは、お判りでしょうか?

 まず、“がん”(ひらがな)、癌(漢字)、肉腫の違いは、発生する細胞の違いによります。癌(漢字)は、皮膚や粘膜など表面の上皮細胞にできたものをいいます。内側の組織である筋肉、骨、血管、神経などに発生したものが肉腫です。血液では、白血病やリンパ腫になります。例としては、胃の表面の粘膜に発生するのは胃癌です。同じ子宮でも、子宮頸癌や子宮体癌は子宮の上皮細胞にできた“がん”なので、漢字の癌になります。子宮の筋肉組織では、良性の子宮筋腫や悪性の子宮肉腫があります。骨では骨肉腫といわれます。ひらがなの“がん”は、癌、肉腫および血液の全てのものを総合した表現です。

 また、“がん”、腫瘍、悪性新生物の表現の区別は、専門分野の違いによります。“がん”は、患者さんと接する臨床分野(病院)で使われます。“がん”が悪性か良性かなどを調べる病理学の分野では“腫瘍”で、どの組織で何%発生しているかや死亡率などを研究する統計学的分野では“悪性新生物”と表現されます。

2. なぜ“がん”になるのか?

“がん”という病気は、その漢字の“癌”が表現しているように、細胞(品)が山のように増える病気(やまいだれ)です。ヒトの細胞の原点は1個の受精卵で、核の中に遺伝情報を司る30億対の塩基を持っています。これが細胞分裂を繰り返して約60兆個の細胞になり、人体を構成しています。さらに、生きていく過程で古い細胞を新しくするために、細胞分裂を繰り返しています。その時には30億対の塩基も、全く同じにコピーされているのです。

その60兆個もの細胞がすべて常に規則正しい増え方をしてくれればいいのですが、稀にコピーを間違って違う塩基配列になってしまう時があるので、これを修正する機能(がん細胞を抑える遺伝子)が間違いを修正しています。しかし、このチェックもすり抜けて、異常な核酸配列を持った細胞(がん細胞)が、毎日数百個~数千個出来てしまいます。すると、がん細胞は白血球の仲間であるナチュラルキラー細胞(NK細胞)によって攻撃・破壊されるので、正常細胞だけが残る仕組みになっているために“がん”にならずに済んでいます。

 この様な防御機能があるにもかかわらず“がん”を発症してしまう要因は、先ず高齢化があります。NK細胞活性は、中年以降に急激に低下するので、“がん”を発症する確率が高くなります。また、ハーバード大学がん予防センターから、がん死亡の原因は喫煙(30%)、食事(30%)、運動不足(5%)、飲酒(3%)と報告されています。この様な生活習慣病に関連した因子が加齢とともに蓄積し、“がん”の防御反応を低下させ、“がん”を発症させている要因と考えられます。