「ホームページからの健康相談」の上手な利用法 (血圧)

2016年07月10日

血圧に関しても、沢山の相談があります。

相談例 【血圧が150 mmHgで服薬を勧められましたが、飲みたくありません。服薬以外で改善する方法はありますか?】

上記の場合、最高血圧の記載しかありません。現況を把握するには、最低血圧、年齢、身長、体重、喫煙、運動習慣などのデータが必要です。例えば、下の表のように、最高血圧が150 mmHg と同じでも、年齢や最低血圧により解釈が異なっています。

30歳代や40歳代の若い世代では、150 mmHg は高めなので、原因究明と対策が必要です。しかし、最高血圧は年齢とともに上昇するので、70歳以上の高齢では150 mmHg程度は問題がありません。従って、年齢は重要な因子になります。

次に、最低血圧の記載も重要です。Aの場合は、最高血圧と最低血圧の差(脈圧)が25しかありません。このような傾向は30~50歳代の若い世代にみられる事が多く、心疾患などが原因である可能性があります。

逆に、Cの場合には上下の差が大きくなっています。このような症例は高齢者に多く見られます。加齢とともに、最高血圧の上昇と最低血圧の低下が同時に進行するので、上下の差(脈圧)が大きくなります。原因として、心臓近くの血管で動脈硬化が進行している可能性があります。

Bの場合は、最高血圧と最低血圧は基準値よりもやや高めでしたが、上下の差(脈圧)は50と良い値なので、動脈硬化の進行は未だ無いように見えます。血圧上昇の原因は不明なことも多いのですが、中高年で比較的多い原因は肥満とストレスです。身長と体重からBMIを計算して、25以上の場合は肥満です。肥満の場合は、体重1 kg 当たりの減量で血圧が2 mmHg 低下するので、10 kg の減量で20 mmHg程度の低下が期待できます。従って、食事療法と運動療法の組み合わせが有効です。職場内で慣れない仕事に移動になった場合や、売り上げ目標などの精神的ストレスが原因になる場合も多々あります。この場合は、その原因を取り除くことが不可欠です。

本来の基準値の設定とは、健康な人が95%入る範囲のことですから、基準値を外れるのは5%のみのはずです。現在の血圧の基準値である最高血圧が 130 mmHg 以下では、中高年の80%位が異常高値になってしまいます。中高年では、血圧の基準値を少し超えた程度で深刻になることはありません。最低血圧、年齢、身長、体重、喫煙、運動習慣などのデータを添えて、ご相談ください。

2015年11月1日:ホームページからの健康相談(降圧剤を飲むべきか?)

2014年5月1日:基準値(正常値)のウソが修正される?

2013年11月20日、30日:健康人を病人にする方法(3:血圧)

「ホームページからの健康相談」の上手な利用法 (LDL)

2016年07月01日

ホームページからの健康相談を、沢山の方々にご利用いただきまして、有難うございます。相談の検査項目のみならず状況把握ができる詳細なデータあると、より適切なアドバイスをすることができます。ご相談件数が最も多いLDLと血圧(次回)を例に、上手な相談の仕方を説明させていただきます。

相談例 【LDLが200 mg/dl を越えています。短期間に低下する方法をアドバイスください。】

上記の場合、LDLの記載しかありません。ご相談のLDLの高値の原因として食べ過ぎ、アルコール摂取過多、運動不足、喫煙、ストレスなどの生活習慣と、体質的なもの(遺伝的)があり、原因により対応が違ってきます。生活習慣なのか体質的なものかを判断する為に、総コレステロール、中性脂肪、HDL、身長、体重、年齢、肝機能の値、喫煙、運動、家族の健康状況などを総合的に見て、どちらが原因かを判断します。生活習慣が原因の場合には生活改善である程度まで低下しますが、遺伝的な場合には服薬が必要です。以下に、A、B、Cの3人の例で説明します。

Aの場合は、中性脂肪と他の3項目も全て高いので、暴飲暴食が原因の可能性が強い症例です。このタイプは、カロリーの摂り過ぎなので肥満がある場合が多いです。身長と体重の記載があれば、さらに確定的です。カロリー制限と有酸素運動で、高脂血症の改善が期待できます。

Bの場合は、BMI=22.1 の標準体重であることから、暴飲暴食の期間が短いことが推測されます。元々やや高めの脂質に加えて、最近の運動不足と食べ過ぎが原因で値が上昇したと考えられます。1カ月前から始めた運動と食事制限で、中性脂肪は著しく改善していますが、総コレステロールは運動と食事制限で低下するには長期間を要しますので、まだ成果が出ていません。なお、総コレステロールは変動幅が小く極端に低下することは有りませんが、運動により基礎代謝を向上させることで、暴飲暴食をする前の値くらいまでゆっくりと低下していくと予想されます。

Cの場合は、総コレステロールとLDLが高いのですが、中性脂肪は高くはないので、食事が原因とは考え難いです。さらに、HDLが低くてLDLとのバランスが崩れているので、家族性の高脂血症(遺伝性)の可能性が高いと考えられます。このタイプは、肥満は無く痩せている場合も多いです。家族内にも同様の高脂血症者がいる可能性があります。この症例の改善には、高脂血症薬の服用が必要になります。

他には、糖尿病や甲状腺の病気、薬剤が影響して上昇するケースもあります。ですからLDLが高いといっても、食事や運動療法で改善が見込まれる場合、服薬が必要な場合、疾患の治療で低下する場合などがあります。LDL以外にも、罹患している病気、服用している薬剤、総コレステロール、中性脂肪、HDL、身長、体重、年齢、肝機能の値、喫煙、運動、家族の健康状況など、多くのデータを添付してくださることで、より的確なアドバイスが可能になります。

【参考記事】

2015年10月20日:ホームページからの健康相談(高脂血症薬は飲むべきか?)

2015年4月10日:コレステロールは食事制限の必要性なし!

2014年5月1日:基準値(正常値)のウソが修正される?

2013年10月30日:健康人を病人にする方法(2:高コレステロール血症)

がん研究最前線: ③ がん細胞狙い撃ちの放射線治療

2016年06月20日

放射線治療には、X線、γ(ガンマ)線、電子線などがあり、陽子線や重粒子線による治療が一部の施設で行われています。放射線治療の利点は、手術によって切除することなく臓器をそのまま残すので、がんになる前と同じようにしておけることです。逆に、放射線治療のデメリットは、正常組織への被ばくによる食欲不振や吐き気、倦怠感、血小板や白血球の減少、放射線被ばくによる二次がん発症などがあります。従って、がん細胞のみに作用する放射線治療が望まれていました。

東京大学などの研究チームが、がん細胞のみを狙い撃ちする放射線治療を発表しました。造影剤に使う金属ガドリニウムを、がん細胞に集まりやすい成分で作ったナノカプセルに包んで投与すると、MRIでのがん組織の撮影が可能になります。さらに、患部に中性子線を当てると、ガドリニウムがガンマ線を放出するので、がん組織にのみ狙い撃ちに放射線治療が可能になります。同じような中性子を使った治療方法として現在はホウ酸を用いていますが、ガドリニウムからのガンマ線のほうががん細胞の死滅作用が強いことと、同時に画像も得られる利点があります。

中性子線を用いるので、一般病院での実用化にはまだハードルもあるのですが、小型の中性子線装置の開発も進んでいます。近い将来は、副作用の少ない放射線治療の方法となる研究です。

がん研究最前線: ② 膵臓がんを血液検査で早期発見

2016年06月10日

膵臓がんは、その症状が乏しい上に、画像検査でも見つけ難いことが知られています。従って、発見された時点で既に進行している症例が多く、5年生存率(9.2%)や10年生存率(4.9%)が低いので、最も危険ながんの一つに分類されます(本ブログ2016年2月10日)。故に、早期発見の手法確立が望まれていました。

血液検査で早期の膵臓がんを見つける手法を、東京大学の研究チームが発表しました。この測定原理は、アメリカのがんセンターの研究グループが発表した方法を応用したもので、膵臓がんの発症時には特定の20~25塩基の短いマイクロRNAが大量に現れ、これががん遺伝子にくっつくと、がん遺伝子を抑えきれなくなり、膵臓がんを発症するというものです。(マイクロRNAとは、たんぱく質を合成する通常のRNAと異なり、遺伝子が使われる量の調整などをしています。1000種類以上のマイクロRNAが見つかっています。)従って、血液中のこのマイクロRNAを正確に測定することで、膵臓がんを早期に発見できるのですが、既存の方法では血液中の量を測定することができませんでした。東京大学の研究チームの開発した方法では、化学的な処理でこのマイクロRNAの特徴的な配列のみを抜き出すことで、血液での測定を可能にしています。この方法で測定すると、膵臓がんの患者のマイクロRNA量は健常者の5倍程度の増加が認められています。さらに、膵臓がんの前段階でも既にマイクロRNAの増加があり、膵臓がんの手術後には低下することが確認されています。

今後、さらに症例数を増やして精度を向上させることで、健康診断の血液検査でも早期の膵臓がんを見つけることが可能になりますので、生存率の向上に寄与することでしょう。

がん研究最前線: ① 悪性度も見分ける造影剤

2016年06月01日

”がんの検査で汎用されているPET-CTは、目印を付けたブドウ糖を注射すると“がん”に集まるので、全身をCT撮影して目印のブドウ糖を探せば、“がん”の有無に加えて位置や大きさも捉えることができます。PET-CT検査では、5 mm程度のがんの発見が可能です。

東京大学などの研究チームが発表した新たな造影剤を用いる方法では、1.5 mmのマウスの転移肝がんを確認できた上に、その悪性度も検知できています。その原理は、図のようになっています。がん組織は酸素濃度が低いので、悪性度が高い程酸性に傾いています。そこで、酸性状態で溶けだすリン酸カルシウムと造影剤のマンガンイオンを微小なカプセルに閉じ込め、患者に投与します。この微小なカプセルは、正常な組織では血管から漏れませんが、“がん”組織の血管では比較的大きな穴があるので、ここから漏れ出て周囲の“がん”細胞へ届きます。カプセル内にある造影剤のマンガンイオンをMRIで撮影することにより、ごく初期の“がん”細胞を見出すことが可能で、さらに悪性の場合にはより強く反応します。

この方法を用いると悪性度もわかるので、治療方法の選択や予後の経過予測がより正確になる事が期待できます。