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大腸がん

アスピリン(鎮痛解熱剤)の大腸がん予防効果と危険性

2015年12月10日

アスピリンの大腸がんへの予防効果の臨床試験が、国立がん研究センターなどの20施設で始まりました。対象は、大腸がんになる危険性が高い大腸ポリープを切除した40~69歳の7000人です。

アスピリンは、解熱鎮痛剤として汎用されていますが、他にも血栓防止薬としても心疾患などの患者で用いられています。臨床医は以前から経験的に「アスピリン常用患者には大腸がんが少ない」ことを感じていたので、これまで両者の関係は小規模に検討されていました。英国の研究グループが、本年9月の医学雑誌「セル」にアスピリンが大腸がんを抑制する機序を発表しています。即ち、がん細胞は、免疫抑制物質のプロスタグランジンE2(PGE2)を作って、T細胞による免疫の攻撃を避けて生き延びています。アスピリンは、PGE2を産生する物質(COX-1およびCOX-2)の働きを抑制するので、がん細胞は免疫の攻撃を受けて衰退する機序です。この機序通りに、アスピリンで大腸がんが予防や治療できれば大きな成果です。

しかしながら、度々書いているように、薬には効果の反面としての副作用があります。予想させるアスピリンの副作用は、大きく3つが考えられます。第1に、胃の障害を引き起こす可能性が高いことです。特に、ピロリ菌感染者では出血性の胃潰瘍などの確率が高まりますが、日本人の中高年では半数以上がピロリ菌の感染者です。第2に、アスピリンは血液の凝固を阻害して出血傾向が高まるので、脳内出血が増えることや交通事故等の出血では命の危険性が高まります。第3に、解熱作用で体温が低下すると、免疫力の低下を招いて感染症の可能性が高まります。

臨床研究自体は、意味があると思います。しかし、実際に使用すべきか否かは、アスピリンによる大腸がんの予防効果と副作用による危険性のどちらが重いかの結果次第です。私の基本的な考え方は、薬よりも食生活の改善や運動などによる免疫力向上と定期健診で対応すべきです。

ソーセージやベーコンでがんになる?

2015年11月10日

先月26日に、世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)から、ソーセージやベーコンなどの加工肉がタバコやアスベストなどと同じ「発がん性がある物質」に分類され、毎日50g食べると発がん率が18%上昇するとの報告がありました。近年、大腸がんの患者が増えているのは、農耕民族の日本人が肉食の西洋食に急変していることが原因と考えられているので、肉や加工肉を大量に摂取することは大腸がんのリスクを上昇させる可能性は高くなります。では、どの位の摂取量なら問題ないのでしょうか?これに対して色々な分野から反響がありますが、本ブログにて私見を述べます。

毎日50gの加工肉を食べたと計算すると、年間では18.3㎏になります。日本では年間平均の摂取量は6.1㎏程度ですから、現在の消費量ではがんの誘発には問題外の量ということになります。ソーセージをよく食べるドイツでは、年間では30.7㎏程度食べていますが、がん患者は多くはありません。今回の報告では、加工肉を食べすぎたことに起因する死亡例は、世界で31000件と推測されています。日本のがんによる死亡者数は年間で約36万人ですから、加工肉以外の要因が大きいという解釈になります。従って、通常量の加工肉の摂取では、発がんの心配をする必要はありません。

問題になるとするならば、肉や加工肉を大量に食べて、野菜、ヨーグルトや納豆などの発酵食品、ごはんなどの割合が極端に少ない場合と考えられます。元気な高齢者は、肉類も十分に摂取している方が多いですが、野菜やくだもの、ヨーグルトや納豆、ごはんなどのバランスが良いのです。なお、テレビの番組で納豆、ヨーグルト、トマトなどが体に良いと放送すると、マーケットの商品棚からこれらが消えることがありました。健康に良い物もそればかりを食べていると栄養が偏るので、逆に不健康になってしまいます。多種類の食品のバランスが大切です。

結論として、

ソーセージやベーコンなどの加工肉は、通常の摂取量ならば発がんの心配はないと考えられます。肉、野菜、発酵食品、炭水化物などをバランスよく摂ることが、健康寿命を延ばす秘訣です。

良いお年をお迎えください!

2014年12月20日

早いもので、もう年末です。一年間に渡り本ブログをお読みいただきまして、有難うございました。皆様の健康増進に役立つ記事を書きたいと願っていますが、健康状態も欲しているものも十人十色ですので、全員の方々には満足頂いていないのかもしれません。ご要望にお応えすべく、色々な内容を入れるのと、その時の話題について書いていきたいと思っています。

本年の最終回は、年末の医学の記事で、私が注目したものを3つ紹介します。

1つ目は、大腸がんの転移の可能性を示す「Trio」というたんぱく質が見つかったことです。発表したのは、京都大学などの研究グループ。Trioの特定部位に変化が有ると無しとで、大腸がんの転移で亡くなるか又は予後良好かが予測できるというものです。他のがんでも転移の予測が可能になったら、手術の仕方から術後の治療まで、より的確に出来るようになります。早期の実用化が望まれます。

2つ目は、殆どの抗生物質が効かないMRSA(メシチリン耐性黄色ブドウ球菌)を、僅か1分で殺菌してしまう新しい抗生物質(ライソシンE)が発見されたことです。発表したのは、東京大学などの研究グループ。MRSAは、普段は無害な細菌ですが、免疫力が低下した病人や高齢者には命とりの細菌です。これで助かる命が増えるなら喜ばしいことです。ここで知っておいていただきたいのは、MRSAが出来てしまったのは、抗生物質を使いすぎたために、細菌が抗生物質に対して抵抗力を持ったためなのです。新しい抗生物質(ライソシンE)も使いすぎれば、いずれは抵抗力を持った細菌が出現することになり、イタチごっこになるのです。薬は必要最低限に使うことが重要です。

3つ目は、9月から販売されている前立腺がん用の抗がん剤「ジェブタナ」を使用した患者5人が死亡しました。亡くなった5人は、60歳代3人と70歳代2人で、肺炎や敗血症(細菌が血液中に入り込み、全身に重篤な症状を起こす)が原因です。この抗がん剤の使用で、細菌をやっつける好中球という種類の白血球が減ることが報告されています。従って、細菌感染が起こりやすく、肺炎や敗血症を発症しやすくなります。前立腺がん患者は、高齢化とともに増えています。病院は商売なので、手術や投薬治療を勧めてきますが、その多くは良性で、手術や抗がん剤の必要がない場合も多々あります(癌の進行度や悪性度で総合的な判断が必要)。亡くなった5人の病状はわかりませんが、抗がん剤の影響で寿命を縮めた可能性は高いようです。抗がん剤は、がんを治してくれる可能性よりも、寿命を縮める可能性の方が高いのが現実です。抗がん剤の使用は、慎重にしなければいけません。

人生で最も大切なものは、自分と家族の健康です。健康な良いお年をお迎えください。

がん・予防 (2)

2014年10月10日

 3.  臓器別のがん死亡率

 平成24年に“がん”で亡くなった方は36万人で、死亡総数の28.7%と約3人に1人の割合で、死因のトップになって以来増え続けています。従って、がんを予防すれば平均寿命が延び、医療費の削減にも貢献します。

死因

 がんの罹患者数と死亡者数を下図に示しました。臓器別の死亡者数で多いのは、男性では肺、胃、大腸の順で、女性では大腸、肺、胃です。なお、男性の前立腺がんおよび女性の乳がんは罹患者が人口10万人当たり100人を超えるのですが、死亡者では共に20人を下回っています。これは、癌の種類によって発見されやすいもの、および悪性度や治癒率の高低があることを示しています。以下に、死亡率の高いがんについて説明します。

人工10万人当たりのがん罹患者(左)と死亡者数(右)

① 肺がん

 肺がんには、小細胞がんと非小細胞がん(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん)があります。肺の入り口の太い気管支部分(肺門部)には扁平上皮がんが多く発生し、喀痰検査や気管支鏡の検査が有効です。気管支の奥の肺胞がある部分(肺野部)では、殆どが腺がんで、X線検査が有効です。肺がんの原因は、喫煙が挙げられます。近年、禁煙志向が高まっているのもかかわらず肺がん患者が多いのは、肺がん発症までには長期間かかるので、以前の喫煙者が現在発症しているのです。近い将来には、禁煙の効果で肺がんの発症者は減少するものと推測されます。

②. 胃がん

 胃がんは、胃の表面の粘膜に発症し、徐々に粘膜下層、筋層、漿膜へと浸潤していきます。粘膜下層までの進行はまだ早期胃がんなので、非常に高い確率(ほぼ100%)で根治できますが、筋層より深くまで進行すると治癒の可能性が低下していきます。原因は、食生活が大きく影響すると考えられています。また、ヘリコバクターピロリ菌(ピロリ菌)の感染も、胃がんの発症に関与します。中高年では7~8割がピロリ菌に感染していますが、その内で胃がんになるのは約0.5%(200人に1人)の割合です。しかし、胃がん患者には高確率でピロリ菌の感染がみられます。抗生物質による除菌は、現在は健康保険が使えるので安くできるようになりました。副作用は、肝障害や下痢などがあります。病院は除菌を勧めますが、がんになる確率が0.5%なので、除菌をするかしないかは本人の意志次第です。ただし、すでに胃に障害がある場合には除菌が必要です。また、症状がなく除菌を望まない場合には、定期的に胃カメラなどでの検診が望まれます。

③ 大腸がん

 大腸は約2 mの長さで、結腸(上向結腸、横行結腸、下向結腸、S字結腸)、直腸、肛門の3部位に分けられます。大腸がんの発生し易い部位は、直腸35%とS字結腸34%で、約8割の大腸がんは肛門から近くの部位に発症します。初期の大腸がんであれば、内視鏡手術で簡単に除去できますし、予後も良好です。定期的に便の潜血反応や内視鏡検査を受けることで、早期発見が可能です。大腸がん発症の原因として、食の欧米化で動物性脂肪の摂取量が増えたことが挙げられます。本来、農耕民族である日本人は、農作物の食事に対応した腸の形状になっているので、洋食よりも和食が適しているのです。

4.最新のがん検査(マイクロRNA)

ヒトの体は、細胞の核内にあるから転写されたRNAにより合成されたタンパク質で出来ています。RNAの中には、タンパク質合成の遺伝情報を含まないRNA(ノンコーディングRNA)が大量に存在しています。その中でも、マイクロRNA(miRNA)と呼ばれる長さ20から25塩基ほどのRNAは、遺伝子の働きを抑制する機能を持ち、がんなどの疾患と関連することが、近年明らかになり注目されています。このマイクロRNAは、細胞内に存在するタンパク質への翻訳はされないで、他の遺伝子の発現を調節する機能を有すると考えられているRNAの一種です。ヒトには2500種類以上あり、がん患者の血液中では種類や量が変動することが明らかになったので、そのパターンを調べることで、がんの種類を特定する検査です。


開発対象となっている13種類のがんは、
胃がん、食道がん、肺がん、肝臓がん、胆道がん、膵臓がん、大腸がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、乳がん、肉腫、神経膠腫
です。1回の採血で検査が出来る上に、初期の癌も発見できるメリットがあります。現在実用化できているのは、乳がんと膵臓がんの2種類のがんで、他にアルツハイマー病があります。採血し、血中のマイクロRNAを抽出したのち、発現パターンを調べます。その有力な手法が、マイクロアレイです。この方法では数千から数万種類の遺伝子の発現パターンを短時間で網羅的に調べることができます。近い将来には、健康診断などの1回の採血で多種類のがんの有無を簡単に調べられるようになるでしょう。 

 

抗がん剤の副作用(1)

2014年02月10日

皆さんは、抗がん剤にどのようなイメージをお持ちでしょうか?一般には、がんが治る薬として理解されていることでしょう。では、実際に抗がん剤でがんが治る確率がどの位かを、下図に示します。この中で有効率や消失率などの言葉が出て来ますので、先に説明を加えておきます。有効率とは、部分寛解のことで、腫瘍の縮小率が50%以上で、新しい病変出現が4週間以上無い状態を示しています。また、消失率とは、がんが全く無くなることを意味しています。抗がん剤が有効ながんは、急性白血病、悪性リンパ腫、睾丸腫瘍、咽頭がんなどですが、それでも消失率は約半分の症例です。しかも、これらの年間死亡者は1500人程度の少数派なのです。乳がん、卵巣がん、骨髄腫などへの抗がん剤の投与は、病気の進行を遅らせることが出来る程度と解釈すべきで、治癒は殆ど期待できません。がんの中で最も頻度が高く、年間数万人以上が死亡する胃がん、大腸がん、肺がんなどは、抗がん剤による有効率は極めて低く、一部の患者で症状が和らぐ程度なのです。ましてや、消失率に至ってはほぼ期待できない結果です。脳腫瘍、腎がん、膵がん、肝がんでは、効果は無いと考えるべきでしょう。では、何故にこの様な低い効果にも関わらず抗がん剤が使われているのでしょうか?

 抗がん剤の認可は、他の薬剤よりも極端に甘い基準でされているのです。先ず、第一段階の健康者での安全確認は他の薬剤と同じです。しかし、第2段階以降がお目こぼしの様な審査なのです。第2段階では、ごく少数のがん患者で効果の範囲や適正量の調査がなされますが、ここでは部分寛解が20%の患者で認められれば良いのです。即ち、80%の患者では全く効果がなくても認可になるのです。次に、第3段階の一定規模の患者での効果や安全性の最終確認ですが、抗がん剤の場合には必要ないのです。恐ろしいことだと思いませんか?現在ある100種類近い抗がん剤のうち、延命効果が確認されたものは殆どありません。

抗がん剤の効果

その上、副作用の発言頻度の調査も必要ありません。この様に、抗がん剤の効果は極限られたものですが、ご承知のように抗がん剤の副作用は沢山あるのです。最も多いのは吐き気、食欲不振や下痢などの消化器症状です。次に、骨髄抑制による貧血、他には腎機能障害や神経障害などもあります。抗がん剤の効果の恩恵を受けるのは極々一部の患者のみで、半数以上の患者は副作用のみで、逆に体力を奪われ、早死にしているのが現状なのです。

この様な抗がん剤ですが、ほとんどの医師は何のためらいもなく使用しています。私も、病院に勤務していた時には、がん治療には手術と抗がん剤という組み合わせに何の疑問も持っていませんでした。なぜなら、その様に教育されているのですから、それが正しいと思っているのです。この会社に籍を置いてから、沢山のがん患者さんと接し、その状況を知ると、何かが間違っていると感じるようになったのです。どうしてこのような現実が教育現場で知らされないのかといえば、やはり、製薬会社の売り上げ至上主義といえるでしょう。がん患者一人当たりの治療費は、発症してから死に至るまでの平均3年間で、約1500万円といわれています。ちなみに、2010年のがん領域のT製薬会社の1社のみの売り上げは、1400億円以上あるのです。この利権を手放すはずはありません。抗がん剤を使用するべきか否は、次のことを充分に考慮したうえで判断してください。効果より副作用がはるかに大きく、寿命を縮めることが多い。従って、効果と副作用の重さを天秤にかけ、どちらが重いかを熟考してください。

この様な抗がん剤ですから、本来は抗がん剤の効果や副作用に精通した専門医が行うべきなのですが、今の日本の現状は、殆どの場合は外科医が行っています。日本のがん薬物療法専門医は、全国で約600名しか認定されていません。アメリカの約1万人と比較すると、極端に少ないのがご理解いただけると思います。専門医の少ない理由は、資格取得の難易度が高く、5年以上のがん治療経験、認定施設での2年以上の研修に加え、過去5年以内で30症例以上の症例報告が必要だからです。利権ではなく、患者のことを考えてくれる専門医が、現在の10倍くらいに増えてほしいものです。