がん・予防 (1)

2014年10月01日

1. がん(ひらがな)と癌(漢字)、腫瘍、悪性新生物の違いとは?
 “がん”の分野では、“がん”(ひらがな)、癌(漢字)、肉腫、腫瘍、または悪性新生物と複数の表現があります。この違いは、お判りでしょうか?

 まず、“がん”(ひらがな)、癌(漢字)、肉腫の違いは、発生する細胞の違いによります。癌(漢字)は、皮膚や粘膜など表面の上皮細胞にできたものをいいます。内側の組織である筋肉、骨、血管、神経などに発生したものが肉腫です。血液では、白血病やリンパ腫になります。例としては、胃の表面の粘膜に発生するのは胃癌です。同じ子宮でも、子宮頸癌や子宮体癌は子宮の上皮細胞にできた“がん”なので、漢字の癌になります。子宮の筋肉組織では、良性の子宮筋腫や悪性の子宮肉腫があります。骨では骨肉腫といわれます。ひらがなの“がん”は、癌、肉腫および血液の全てのものを総合した表現です。

 また、“がん”、腫瘍、悪性新生物の表現の区別は、専門分野の違いによります。“がん”は、患者さんと接する臨床分野(病院)で使われます。“がん”が悪性か良性かなどを調べる病理学の分野では“腫瘍”で、どの組織で何%発生しているかや死亡率などを研究する統計学的分野では“悪性新生物”と表現されます。

2. なぜ“がん”になるのか?

“がん”という病気は、その漢字の“癌”が表現しているように、細胞(品)が山のように増える病気(やまいだれ)です。ヒトの細胞の原点は1個の受精卵で、核の中に遺伝情報を司る30億対の塩基を持っています。これが細胞分裂を繰り返して約60兆個の細胞になり、人体を構成しています。さらに、生きていく過程で古い細胞を新しくするために、細胞分裂を繰り返しています。その時には30億対の塩基も、全く同じにコピーされているのです。

その60兆個もの細胞がすべて常に規則正しい増え方をしてくれればいいのですが、稀にコピーを間違って違う塩基配列になってしまう時があるので、これを修正する機能(がん細胞を抑える遺伝子)が間違いを修正しています。しかし、このチェックもすり抜けて、異常な核酸配列を持った細胞(がん細胞)が、毎日数百個~数千個出来てしまいます。すると、がん細胞は白血球の仲間であるナチュラルキラー細胞(NK細胞)によって攻撃・破壊されるので、正常細胞だけが残る仕組みになっているために“がん”にならずに済んでいます。

 この様な防御機能があるにもかかわらず“がん”を発症してしまう要因は、先ず高齢化があります。NK細胞活性は、中年以降に急激に低下するので、“がん”を発症する確率が高くなります。また、ハーバード大学がん予防センターから、がん死亡の原因は喫煙(30%)、食事(30%)、運動不足(5%)、飲酒(3%)と報告されています。この様な生活習慣病に関連した因子が加齢とともに蓄積し、“がん”の防御反応を低下させ、“がん”を発症させている要因と考えられます。

健康食品で健康被害(ウコン)

2014年09月20日

平成18年厚生労働省から「健康食品が原因と疑われる健康被害の報告例」が発表されました。近年、多様な方法で世界中から購入可能となった健康食品ですが、一部の商品を利用された方に健康被害が現れました。

健康食品とは、不足しがちなビタミン、ミネラル、アミノ酸などの栄養補給を補助する食品で「サプリメント」とも呼ばれます。「天然の有効成分のみを抽出した自然食品」などと効能効果が宣伝されていますが、抽出されたことにより数倍~数百倍に及ぶ不自然な量が健康を害する原因になっています。その健康被害で多いのがウコンです。

ウコンは中国原産ショウガ科の植物で主に香辛料として用いられます。俗に「肝臓の機能を高める」といわれますが、日本で発生した健康食品による肝障害の原因の4分の1<を占めるといわれます。

ウコンによる肝障害の原因成分については、2011年6月29日のNHKの「ためしてガッテン」が、ウコンに含まれる大量の鉄分が原因とする調査結果を紹介しています。健康な人なら問題はないが、肝炎にかかった人は鉄が肝臓にたまりやすく、その過剰な鉄が酸化促進作用で肝炎をさらに悪化させるのです。

他のウコンの肝障害の原因として、有効成分「クルクミン」が体内で酸化を抑える抗酸化物質として作用する一方で、鉄と同じように酸化促進作用も持つ両刃の剣との説もあるのです。また、アルコールによって誘発された肝障害が、クルクミンにより増悪するとの研究があります。日本で盛んに宣伝されている二日酔い防止や肝機能強化といった効果に対するまったく逆の作用指摘されているのです。

消化器系に関しても、食事中に含まれる通常量であれば安全とされていますが、過剰、長期の摂取で下痢や腹痛などを起こすことがあります。胃潰瘍、胆石症の方は利用してはいけません。

栄養は、バランスの良い食事で摂るべきで、不自然な形の加工物は要注意です。

特保のウソ(2)

2014年09月10日

特保のウソの最たるものは、特殊な実験条件です。本来、実験は一般のお客様の状況を反映した条件で行わなければならないのです。しかしながら、特保の実験条件は極めて特殊な条件でのデータを用いていることがしばしばです。例えば、よく知られた商品ではエコナクッキングオイルがあります。健康効果として、肥満気味の方や中性脂肪が高めの方にお勧めとあったのですが、実際にラットやヒトで検証すると脂肪燃焼や中性脂肪燃焼への効果は認められていません。この理由は、メーカー側の実験条件では、調理に使用したものでなく直接飲ませたデータや、健康人ではなく糖尿病患者を用いたデータを使っていたためなのです。ですから、健常者では何の効果もないのですが、誰にでも効果があるような表現を用いていたのです。なお、発がん物質が含まれていたことは論外です。

他の例では、脂肪が燃焼するという高濃度茶カテキンの「ヘ●●●緑茶」です。私は、そんなのは効果がないから運動した方が好いよと常に言っています。なぜなら、この実験は肥満の強い人の場合に、多少の効果が期待できるものなのです。肥満でない通常の体型の人には効果がないことは、「男女ともに、BMIの低い人では体脂肪低減を認めず」と、論文の結論に書いてあるのです。しかしながら、テレビの宣伝では、通常体型の俳優にも効果があるように表現しています。なお、茶カテキンは過量摂取(600 mg/day)で肝障害などの健康被害を起こす恐れがあるので、アメリカでは摂取制限されている成分です。ヘ●●●緑茶350ml缶には540mgのカテキンが入っています。効果がないといって多量に摂取すると、逆に病気になる可能性がある特保であることを知ってください。

さらに最近の例では、特保のコーラの売れ行きが好調です。でも、本当にコーラを飲んで体脂肪が落ちて、ダイエットや健康に良いのでしょうか?どう考えても、私には眉唾にしか聞こえません。CMは、ボクサーの矢吹ジョーがポテトチップス、ピザ、フライドチキンなどの高カロリー食品を食べているが、特保のコーラを飲めば脂肪の吸収が抑えられるので安心というものです。実際の実験では、マーガリンがびっしり入ったパンを摂取した場合に、脂肪の吸収が僅かに低減されている程度である。すなわち、過摂取の脂肪分の大部分は吸収されるので、コーラを飲んでもダイエットどころか肥満につながるのが実際です。この様な紛らわしい表現は、本来なら薬事法違反になるのですが、認可施設や実験施設のお偉いさんは厚労省の天下りなので、大手を振ってまかり通るのです。

 

この様に、特保の製品を買うと厚生省の天下り役人のフトコロが暖かくなる効果はありますが、一般消費者にはうたっているような効果は殆ど期待できません。

次回は、健康食品による健康被害についてです。

特保のウソ(1)

2014年09月01日

これまで薬の副作用について書いてきたので、読者の方は薬は極力飲まない方が賢明ということをご理解いただけたと思います。では、健康食品の特保はどうなのでしょうか?特保とは、「食生活において特定の保健の目的で摂取する者に対し、その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示をする商品」とあり、2009年の売り上げは約5500億円になっています。特保商品は、国が安全や効果にお墨付きを与えたものなので安心と思っている方も多いでしょう。ところが、ここにも産学官の癒着が生んだウソが隠れているのです。

第一に、特保が認可されるためには安全性や効果が実証された医学データが必要です。ところが、このデータにもピンキリがあるのです。名の通った医学雑誌に掲載された研究データなら、信用性が高いといえます。なぜなら、この様な雑誌に掲載されるには審査委員の厳しい審査を通過しなければならないからです。審査委員は、実験の妥当性はもちろん、文章の表現までチェックしますので、信ぴょう性のない内容では、受理されないのです。しかしながら、特保の実験データの多くは、特保申請に有利なデータを作る産学官癒着の研究所がおこなっているのです。そのデータをもとに、この研究所ゆかりの学会で発表して、自作自演の効果や安全性をアピールするのです。もちろん、研究所は官僚の天下り先であるのです。その研究所とは、公益財団法人「日本健康・栄養食品協会」で、全国の700以上の健康食品関連の会社が加入しています。この財団の専務理事は厚生労働省からの天下りポストになっています。さらに、特保の臨床試験を請け負う「総合医学研究所」は、特保の臨床試験で経営が成り立っており、利害関係の強い学者の経営なのです。原発事故のとき、安全神話を作り続けてきた御用学者たちのいい加減ぶりが明らかになりましたが、特保でも同じことが存在しています。

次回は、健康食品の摂取が原因の健康被害などについての記事です。

冷えと健康長寿(3:美露仙寿の冷え症への効果)

2014年08月20日

健康的な冷え性対策は、バランスの良い食事と適度な運動が基本です。これを補うものとして、美露仙寿(メイルセンジュ)がありますので、その冷え性への研究成果をまとめます。美露仙寿は、枸杞子、山渣子、余甘子、菊花、鹿角霊芝、大棗、ヨクイニンの抽出液であり、これまでに基礎代謝の亢進や免疫力の向上をもたらす研究結果を報告してきました。今回は、アンケート調査により女性への冷え症改善効果を認め、さらにマウスを用いた血流量の測定の追試で有用な結果を確認しました。

1: 女性の体温上昇
美露仙寿の継続飲用者群394名(65.2±13.0歳、飲用量2.1±4.9本/日、6.6±4.9年間飲用)と、同地域の非飲用者のコントロール群221名(59.6±14.7歳)の計615名の女性でアンケート調査を行いました。年齢は美露仙寿群でやや高いのですが、BMIによる体格には差はありませんでした。(22.0±5.0:22.3±4.7、P=0.26)日常的な運動習慣率にも差はなく(0.21:0.18、P=0.46)、比較対象として問題ありませんでした。美露仙寿飲用者は飲用前後で、非飲用者は5年前と比較した体温と、前後における改善度を調査しました。

その結果、非飲用者群の体温は、35.98℃から36.08℃と変化は認められませんでした。これに対し、美露仙寿の飲用者(平均で2.1本を6.6年間)の体温は、飲用前の35.89℃から36.12℃に、0.24℃の統計学的に有意な上昇が認められました。

さらに、飲用前と現在の冷え症に対する改善度は、非飲用者では60%以上が変化なしなのですが、美露仙寿の飲用者では少し改善または著しく改善したと答えた女性が合わせて54.5%で、25.0%の非飲用者と比較して統計学的に有意な改善が認められました(P=1.4×10-4)。

2: マウスの血流量ddYマウス(雄、7週令)を、10%美露仙寿群と通常飼料群に2分類し、それぞれの飼料を2週間与え飼育しました。各群のマウスで、ペントバルビタールを腹腔内投与後、12℃の水に頸部まで3分間浸水させ冷水負荷を行いました。その後、各群のマウスで、レーザードップラー血流計を用い、マウスの尾部および足底部の血流量を測定しました。

その結果、血流量の少ない尾部では、通常飼料群(緑△)と比較して10%濃度の美露仙寿群(紫×)では20分以降で平均値が上回る傾向がみられたのですが、有意差には至りませんでした。(飲用期間の延長により、統計学的有意差が得られると考えられます。)血流量の多い足底では、2群間の血流量の回復の差は著しくなり、10%濃度の美露仙寿を摂取したマウス(赤□)では、30分から50分まの間で統計学的に有意な血流量の回復が認められています。従って、美露仙寿を継続的に飲用することにより、寒さで低下した血流量を速やかに回復させることが示されました。

3. まとめ

冷え症の症状は様々ですが、その根本原因は体内の発熱装置(筋肉におけるエネルギー燃焼)と、その熱を全身に運ぶ輸送装置(心臓の血液循環能)の機能が低調なことにあります。従って、冷え症の改善には筋と心臓の機能を改善するための継続的運動と、体質改善を助けるためのバランスの良い食事が不可欠です。これらを補うものとして検討した美露仙寿は、その継続飲用は女性の体温を上昇させ冷え症の症状を緩和し、さらにマウスの血流量も増加させました。これまでの我々の検討(文献1&2)でも、美露仙寿を飲用したマウスでは食欲が増すのですが体重は逆に少ないことから、基礎代謝の増加が示唆され、これに伴う体温の上昇も予想されていました。今回の女性の体温上昇で、この予測が確かめられました。体温の上昇は、免疫力の向上に有益であることから(文献1~3)、美露仙寿の継続飲用は、冷え症の改善と健康長寿に寄与するものと考えられます。

(本研究内容は、崇城大学薬学部との共同研究であり、医学論文として投稿準備中です。)

参考文献

1. 國香清 ほか: 7種漢方成分含有健康飲料の安全性と作用の医薬学検査.医学検査2012; 61: 541-547.

2.  Zhou J-R et al.: Ergogenic capacity of a 7-Chinese traditional medicine extract in aged mice. Chin Med 2012: 3: 223-228.

3.國香清 ほか.7種漢方健康飲料の抗アレルギー剤としての可能性.アレルギーの臨床.2014; 8: 767-772.