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抗生剤で肥満児

2016年08月20日

2歳までに抗生剤を3回以上飲んだ子供は、4歳時点で肥満児になり易いという研究が、胃腸の専門誌「Gastroenterology、2016年」に発表されました。

抗生剤は、細菌感染の治療に用いられていますが、人への投与量よりも2倍以上の量が食用の家畜へ使用されています。その目的は、食用家畜の感染を防ぐことに加え、抗生剤が成長を促進するので、より大きな状態で早く出荷できることが経験的に知られているためです。その機序として、マウスに抗生剤を投与された場合は、腸内細菌のバランスが変化して、10~15%も太ることが確認されています。

同様の現象が、人にも起きていると考えられます。小児の時期の抗生剤の使用は、腸内細菌のバランス変化が体質として残りやすいために、肥満児になる傾向があると考えられます。この時期の肥満は、将来の生活習慣病を誘発します。抗生剤は、感染症の治療には不可欠なのですが、その使用は必要最低限にすることが望まれます。

テレビの見過ぎは肺塞栓死亡リスクを高める

2016年08月10日

オリンピックが始まり、日本人選手の活躍が報じられています。私は、趣味と健康を兼ねて水泳をしていますので、萩野選手の金メダルが感動的でした。日本人選手を応援していると、ついついテレビの前に居座る時間が長くなってしまいます。

1日に5時間以上テレビを見る人は、肺の血管が詰まって死亡する危険が2.5倍も高いことが、大阪大学などの研究グループから発表されました。肺塞栓症とは、血栓(血の塊)が血液の流れに乗って肺の動脈(肺動脈)に運ばれ、そこを突然ふさいでしまう(塞栓)病気です。飛行機のエコノミークラス症候群と同様で、テレビ視聴時は同じ姿勢になり足を動かさなくなるので、足や骨盤付近に血液が溜まり易くなることが原因と考えられます。

5時間以上のテレビ視聴時間を半分以下にすると、肺塞栓の死亡患者数は3割低下するそうです。他には、時々立って歩いたり、足をマッサージすることでも、リスク低減になります。また、汗をかいて脱水状態になると、より血栓ができやすくなりますので、水分の補給も大切です。健康に気をつけて、応援しましょう。日本ガンバレ!

超高額抗がん剤“オプジーボ”の使用は如何にあるべきか?

2016年08月01日

これまでの抗がん剤の主流は、増殖の速い細胞をがんと認識して攻撃するので、比較的増殖の速い腸や胃などの消化器や造血組織もダメージ(副作用)を受けていました。従って、効果よりも副作用の方が大きく、逆に寿命を縮める症例が多いのが現状でした。

オプジーボのがん細胞への攻撃機序は、上記とは全く異なるものです。すなわち、がんが発症すると、がん細胞表面の異常なたんぱく質(がんペプチド)をがんの目印として、免疫細胞(キラーT細胞)が攻撃します。しかし、がん細胞はキラーT細胞から攻撃されないようにPD-L1という物質で防御するので、免疫(キラーT細胞)が作用せずにがんが発症・進行してしまいます。オプジーボは、がん細胞のPD-L1が働かないようにする作用があるので、キラーT細胞ががん細胞に攻撃を加えて、がんを縮小・治癒させます。

その効果は、皮膚がんのメラノーマでは完全奏効(完治)が2.9%、部分奏効(一部に効果あり)が20.0%の合計22.9%で、一定の効果が認められています。全部のがんの全生存期間中央値をこれまでの抗がん剤のドキタセル(9.4ヶ月)と比較すると、オプジーボでは12.2ヶ月で、約3か月の延命が認められます。なお、PD-L1発現患者でオプジーボが有効と認められる患者では17.2ヶ月で7.8ヶ月延長されます。(この程度の完治率と延命効果でも画期的といえるということは、今までの抗がん剤が薬ではなく毒であるという意味にとれますが、読者の皆様は如何お考えでしょうか?)

副作用の頻度は、これまでよりはるかに少ないとのことですが、免疫の過剰反応(暴走)で間質性肺炎、重症筋無力症、1型糖尿病、甲状腺機能障害、各種臓器不全などの重篤副作用があり、950症例中103例(10.3%)が死亡または未回復(メーカー報告)です。特に、各種免疫療法(NK細胞療法、ワクチン療法など)との併用は危険で、死亡例が複数例報告されています。

上記の効果に対するオプジーボの薬剤費は、1ヶ月で300万円なので年間薬剤費は約3600万円になりますが、高額医療費還付制度を利用すると月6~10万円程度の支払いになります。オプジーボは、最初に患者の少ない皮膚がんで認可され、次いで肺がんに適用拡大されましたが、肺がんの新規患者は年間11万人と多いので、仮にこの内の5万人が使用すると薬剤費は1.8兆円になります。13年の医療費総額は40兆円で、うち高額医療費は2.2兆円ですので、これにオプジーボの高額医療費が加算されます。この金額では、近い将来に多くの健保組合が破たんの道をたどる可能性があります。

以上をまとめると、オプジーボの薬剤費は年間約3600万円で、完治するのが2.9%(100人中3人以下)、一部改善が20%(100人中20人)ですが、副作用があった場合に死亡するのが10.3%(100人中10人以上)になります。この抗がん剤は、費用対効果を考えて如何に使用されるべきでしょうか?患者全員に保険適用で使用すれば健康保険組合が破たんして、他の患者の治療に支障が出ます。全て自費にした場合には富裕層のみに限られて、一般庶民は恩恵を受けられなくなります。私見ですが、オプジーボの有効性の有無の判定方法の開発が急務と考えます。効果のある患者は約2割で、残りの8割は全く効果が無い患者です。オプジーボの使用を薬効の期待できる患者に絞ることで、医療費の増加を抑えてより有効活用できると考えられます。また、製薬会社は利益追求で薬品代を高く設定していますが、ノーベル医学賞の北里大学:大村先生が多くの患者のために薬剤を開発したように、“医は仁術”の精神で安く提供していただきたいです。

がん研究最前線: ③ がん細胞狙い撃ちの放射線治療

2016年06月20日

放射線治療には、X線、γ(ガンマ)線、電子線などがあり、陽子線や重粒子線による治療が一部の施設で行われています。放射線治療の利点は、手術によって切除することなく臓器をそのまま残すので、がんになる前と同じようにしておけることです。逆に、放射線治療のデメリットは、正常組織への被ばくによる食欲不振や吐き気、倦怠感、血小板や白血球の減少、放射線被ばくによる二次がん発症などがあります。従って、がん細胞のみに作用する放射線治療が望まれていました。

東京大学などの研究チームが、がん細胞のみを狙い撃ちする放射線治療を発表しました。造影剤に使う金属ガドリニウムを、がん細胞に集まりやすい成分で作ったナノカプセルに包んで投与すると、MRIでのがん組織の撮影が可能になります。さらに、患部に中性子線を当てると、ガドリニウムがガンマ線を放出するので、がん組織にのみ狙い撃ちに放射線治療が可能になります。同じような中性子を使った治療方法として現在はホウ酸を用いていますが、ガドリニウムからのガンマ線のほうががん細胞の死滅作用が強いことと、同時に画像も得られる利点があります。

中性子線を用いるので、一般病院での実用化にはまだハードルもあるのですが、小型の中性子線装置の開発も進んでいます。近い将来は、副作用の少ない放射線治療の方法となる研究です。

がん研究最前線: ② 膵臓がんを血液検査で早期発見

2016年06月10日

膵臓がんは、その症状が乏しい上に、画像検査でも見つけ難いことが知られています。従って、発見された時点で既に進行している症例が多く、5年生存率(9.2%)や10年生存率(4.9%)が低いので、最も危険ながんの一つに分類されます(本ブログ2016年2月10日)。故に、早期発見の手法確立が望まれていました。

血液検査で早期の膵臓がんを見つける手法を、東京大学の研究チームが発表しました。この測定原理は、アメリカのがんセンターの研究グループが発表した方法を応用したもので、膵臓がんの発症時には特定の20~25塩基の短いマイクロRNAが大量に現れ、これががん遺伝子にくっつくと、がん遺伝子を抑えきれなくなり、膵臓がんを発症するというものです。(マイクロRNAとは、たんぱく質を合成する通常のRNAと異なり、遺伝子が使われる量の調整などをしています。1000種類以上のマイクロRNAが見つかっています。)従って、血液中のこのマイクロRNAを正確に測定することで、膵臓がんを早期に発見できるのですが、既存の方法では血液中の量を測定することができませんでした。東京大学の研究チームの開発した方法では、化学的な処理でこのマイクロRNAの特徴的な配列のみを抜き出すことで、血液での測定を可能にしています。この方法で測定すると、膵臓がんの患者のマイクロRNA量は健常者の5倍程度の増加が認められています。さらに、膵臓がんの前段階でも既にマイクロRNAの増加があり、膵臓がんの手術後には低下することが確認されています。

今後、さらに症例数を増やして精度を向上させることで、健康診断の血液検査でも早期の膵臓がんを見つけることが可能になりますので、生存率の向上に寄与することでしょう。